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製品進化とマネジメント風景 第124話 非破壊検査の適用マネジメント

製品やそれを構成する部品、素材を検査の場面として、研究段階、開発段階、量産段階およびアフターサービス段階があります。検査としては、大きく破壊検査と非破壊検査に分類することができます。 

研究段階では、部品であれ素材であれ、非破壊検査が必要になる場面はあるものの、多くの場合には破壊検査によってデータを蓄積していくケースが一般的です。しかし、開発、量産、アフターサービスと事業化が進んでいくにつれ、非破壊検査の重要性が増してきます。なぜなら、破壊検査をするということは、検査をしたらその対象が使えなくなってしまうからです。 

量産段階で破壊検査を行うことは出荷できる製品の数が減ることを意味します。また、アフターサービス段階で破壊検査をするとしたら、それは顧客が運用している製品の一部を検査で破壊することを意味します。顧客が、「設計寿命に達したから」という理由で古い部品を新品に更新することを納得してくれれば問題はありません。その場合は、新品に更新した後で古い部品の破壊試験を実施し、データとして蓄積すれば良いのです。 

しかし、部品の外見を視る限り新品と大差ないならば、「設計寿命が来ているから」という理由だけでは部品更新に納得しない顧客も多いでしょう。そういう場面において、部品を更新する必要性を、科学的・技術的な根拠を添えて分かりやすく説明すれば、これに反論する顧客は殆どいないはずです。 

日本には、高度成長時代やその後に造られた社会インフラがたくさんあります。道路、橋梁、トンネル、火力発電所、原子力発電所などがその代表です。これらの中には、建設当時に設定した設計寿命を超えたものもありますが、使われ続けています。老朽化した工場、設備、機器などもたくさんあります。 

経済性が明らかに悪化したと分かればそれを理由に更新するのでしょうが、投資効果が小さいと、更新せずにそのまま使い続けたいという欲求も残ります。とは言っても、設備が大破して安全性、経済性の両面で問題を起こすのも困ります。 

よって、壊れる前に適切な手を打ちたいのですが、そのためには決済者を納得させられる合理的な根拠が必要です。「もうすぐ壊れるぞ」という合理的な根拠を突き付けられて反論できる決裁者はいないはずです。それで壊れたら責任問題になるからです。非破壊検査は、このような場面で技術的根拠を提供できる有望な手段であり、今の日本には大きなニーズがあると言えるでしょう。グローバルにもニーズは増えていくはずです。 

非破壊検査にはいくつか種類がありますが、通常は以下の8種類を指すものと考えて良いでしょう。その8つとは、浸透探傷、磁粉探傷、渦電流探傷、超音波探傷、放射線探傷、歪計測、アコースティックエミッション法(以下、AE法)および赤外線サーモグラフィ法です。 

浸透探傷は、表面張力の低い液体を使い、固体表面に入った傷、ひび割れ(クラック)に毛細管現象で染み込ませ、それを検知する方法です。液体に蛍光性浸透液を使った場合には、暗い場所でブラックライトを当てると、浸透液が入り込んだ場所が光るので、そこにクラックがあることが分かります。大抵の素材に適用できる方法です。 

磁粉探傷は、鉄鋼材料の表面に入ったクラックの在り処を自分を吸着させて検知する方法です。渦電流探傷は、電磁誘導の原理を使い、導電材料の表面あるいは表面近傍の傷がある場合とない場合の誘導電流の流れ方の違いを計測して、傷の有無を検知する方法です。 

放射線探傷は、検査対象物質に放射線を当て、物質内を透過した放射線の強さが、傷のある場所とない場所で変化する特性を使い、フィルムに映される濃度変化を見て検知する方法です。これも大抵の素材に適用できる方法です。 

超音波探傷は、超音波の反射データから固体内部の傷や欠陥を検知する方法です。安全性の高い検査方法であり、人間も含めて様々な対象に適用できます。 

歪計測は応力を計測する手段であり、直接的な探傷方法ではありませんが、日本では非破壊検査の1つに分類されています。伝統的には歪計測が有名ですが、最近ではデジタル画像相関法など、画像センサで得た情報を用いて応力を計測する方法が普及しつつあります。 

AE法は、材料が変形や破壊した時に発せられる弾性波を計測し、材料の破壊現象を検知する方法です。その特徴から、部品の状態監視・ヘルスモニタリングへの適用に向いています。逆に言えば、無負荷状態にある部品の表面や内部に入り込んだ傷やクラックの検知には向いていません。 

赤外線サーモグラフィは、検査対象表面のマクロな温度場を計測し、その温度場の中に不連続な変化を見つけて傷やクラックを検知する方法です。傷やクラックがあると、その部分の熱伝導率は周囲と異なるので不連続が生じるというメカニズムを利用しています。精密な検査というよりも状態監視・ヘルスモニタリングに向いています。コロナ禍で普及が進みましたが、ラフな探傷検査方法として、更なる成長の可能性があると考えています。 

非破壊検査の概要を見てきましたが、以降では応用範囲の広く、今後の発展性が期待できる放射線探傷と超音波探傷の2つに絞り、議論を深めます。

放射線検査は使用する放射線によって特徴や用途が分かれます。最も一般的なのはX線の利用ですが、それ以外にも中性子線、電子線、中間子線、さらには宇宙線を利用するものもあります。これらの違いは一言でいえば、放射線の持つエネルギーレベルの違いであり、それによって透過できる厚みに差が出てきます。 

X線は光と同様に電磁波の一種ですが、中性子線以降はいわゆる粒子線です。宇宙から一定の確率で降り注いでくる宇宙線を除けば、基本的に加速器により人工的に作り出す必要があります。しかし、加速器は非常に高価なため、半世紀の歴史があるにも関わらず、その普及は非常に限定されています。結局、経済性を考慮して普及したのはX線探傷だけでした。 

X線探傷は原則2次元ですが、コンピュータによる画像処理技術が発達したことにより、2次元で撮影した画像から3次元画像を作り出す技術が発展しました。いわゆるX線3次元CTです。3次元CTでは、X線源と撮影器が検査対象を中心として回転し、360度の撮影をし、そこで得られた2次元画像をコンピュータで解析し、3次元画像に変換しているのです。中高年の方であれば、一度はX線CT検査を受けた経験があるでしょう。身体の周りを360度、撮影しているのを体感できます。

X線は粒子線ほどの透過力はありませんが、出力を上げることにより、機械部品や小さな製品を丸ごと探傷検査できるようになりました。また、寸法精度が命である精密部品について、内部構造の精密な寸法計測もできるようになりました。 

例えば、950KV級のX線源であれば、その透過力は鉄であれば約10cm,アルミニウムでは約30cm,コンクリートでは約40cmです。これに対して、現時点での最大出力は9MV級であり、その透過力は鉄で約30cm、アルミニウムで約1m、コンクリートでも約1mです。 このクラスになれば、相当な探傷検査ができるでしょう。 

課題は加速器と同様、大出力化による高価格化です。高いので中々が購入できません。そこで、普及を目指して機器をサブスクリプションで利用するサービスが事業化されました。

放射線が大出力化、高価格化に進んでいるのに対して、超音波探傷は非常に安価であり、その安さを武器に普及が進んでいます。最もシンプルなものは、単探子の超音波発生源を手で動かして検査するタイプです。病院でエコー検査を受けたことがある人も多いでしょう。 

手で動かすタイプは安いですがバラツキがあります。この欠点を解消するために、フェーズドアレイ超音波探傷が発明され、普及しました。圧電素子を多数配置し、少しずつタイミングをずらせて超音波を発生させ、その反射データから傷やクラックを特定する方法ですが、検査機器を移動させる必要がないので精度が高いのが特徴です。 

放射線探傷と超音波探傷について詳しく見てきましたが、今後、さらに発展し、成長していくためには何が必要でしょうか? 

3次元X線CTからの結果は分かり易く、一般人であっても大事な点を見誤る可能性は低いと言えます。よって、需要は旺盛なのですが、問題は価格です。高出力化した装置の低コストが一番の課題でしょう。画像データはデジタル化しやすいので、装置の価格が下がれば、量産を想定した素材や部品の検査の場にどんどん入り込んできそうです。  

これに対して超音波探傷はとにかく安価なので、検査コストを下げたい所では高い需要があり、大きな成長の可能性があります。しかし、1つ大きな欠点があります。それは、超音波探傷からのアウトプットは、X線探傷のアウトプットである撮影写真と異なり、見ても分かりにくいのです。正直、専門家でないと検知できません。実際、グローバルなレベルでも、探知能力は専門家の個人的スキルに依存しています。これは、検査できる物量の上限が、専門家の数で決まってしまうことを意味します。 

この上限を取り除かない限り、大きな成長は難しいでしょう。ただ、最近では、超音波探傷のコンピュータによるシミュレーション技術が発達し、専門家しか検知できなかったデータを一般人が見ても分かる形に加工できるようになりつつあります。過去の膨大なデータを学習させたAIも出てきました。シミュレーションやAIの検知精度が専門家並みまで向上し、結果を分かりやすい形で自動加工できるようになれば、超音波探傷の利用は爆発的に拡大するのではないでしょうか?