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製品進化とマネジメント風景 第29話 エコ燃料技術の進化と環境マネジメント

百年に一度の大変革といわれる自動車業界については、マスコミ報道を見る限り、化石燃料を燃やして二酸化炭素(CO2)を排出する内燃機関が嫌われ、蓄電池式電気自動車(BEV)への移行が急ピッチに進むような風潮があります。欧州においては、妻が夫に「なぜ環境に悪い車を買うのか」と問い詰める場面がしばしば起こっているという話を聞きますので、確かに進むのかもしれません。そして、欧州においてBEV化が進んでいくと、それが起爆剤となって世界全体に広まっていくのかもしれません。しかし、本当にそんなに急に変われるのでしょうか? 今日は、その点について、定量性をもって検証するとともに、現実的な方向性を探ってみたいと思います。

CO2が地球温暖化の真の原因かどうかはまだ科学的に証明されていませんが、ここでは原因だと仮定します。その上で、内燃機関車とBEVでどの程度CO2排出が変わるのかをみてみましょう。CO2排出を評価する時には、Well to TankとTank to Wheelという考え方が用いられます。前者は燃料を井戸から掘り起こして自動車の燃料タンクに入れるまでのCO2排出量であり、後者は実際に自動車が移動している時に発生しているCO2排出量です。トータルで評価する時はWell to Wheelで評価します。

ガソリンエンジン自動車におけるWell to WheelのCO2排出を100とすると、ハイブリッド車は約50となります。BEVの場合は電力製造方法に依ります。フランスのように原子力発電が主力の国では4まで下がり、ノルウェーのように水力発電で95%を賄える国では、なんと1までさがります。一方、インドのように火力発電が主力の国では70を超えるレベルとなり、内燃機関とEVの中間にいるハイブリッド車の方が環境にやさしいことになります。つまり、EVによってCO2を減らせるかどうかは、必要な電力を再生可能エネルギーで供給できるかどうかという問題に帰着されます。

再生可能エネルギーで十分な電力を供給できるならばBEV化は意味があります。一方、その供給能力が需要に追い付かないならば、供給できるようになるまでの期間、別の方法を模索する必要があります。その観点から、内燃機関の更なる熱効率向上と環境にやさしい(エコな)合成燃料を製造しよう試みが注目されています。熱効率が上がれば、化石燃料を使わざるを得ない場合でもCO2排出は低減されるし、環境負荷の小さい合成燃料が実用化されて社会実装されれば、火力発電に依存したBEVよりも余程環境にやさしい手段になるからです。

はじめに、再生可能エネルギーによって全ての自動車をEV化するだけの電力を供給できるかどうかを定量的に検討します。エネルギー動向については国際エネルギー機関(IEA)の出している予測が、存在しているものの中では最も信頼できるソースなのでその数字を使います。人類全体のエネルギー生産量は2018年において14300MTOEでした。TOEはtonne of oil equivalentの略で、原油1トンを燃焼させたときに得られるエネルギーです。MTOEはその100万倍を表します。2018年のエネルギー生産量に占める再生可能エネルギーは約10%に過ぎません。IEAの予測では2040年にやっと20%弱に達するレベルです。残りの80%は化石燃料と原子力が供給するということです。

仮に2040年の総エネルギー生産が2018年と同じと考え、再生エネルギー電力の増えた分によって、全ての自動車をEV化できるかどうかをIEA公表データを使って計算してみましょう。2018年における輸送用石油使用量は2580MTOEでした。自動車はその90%なので2320MTOEとなります。一方、2040年に今より増える再生可能エネルギーは1430MTOEです。一見、再生可能エネルギーの増分では賄えないように見えます。しかし、EVは内燃機関車の半分のエネルギーで同じ距離を走れるのでそれを考慮します。仮に2040年の自動車台数が2018年と同じであれば、2320×0.5=1160MTOEであり、増加した再生可能エネルギーを全てBEVのために使えば理論上は賄えることが分かります。ただし、再生可能電力の増分のうち、全てをBEVに回すのは難しく、現実的にはせいぜい半分程度ではないでしょうか。このように考えると、約60%の車をBEV化が可能ですが、残りの40%はハイブリッドを含む内燃機関車にならざるを得ないという結論となります。ちなみに2040年の自動車総数の設定については、一般には増加すると予測する人が多いですが、シェアリングが広まれば減少する可能性もあると考え、ここでは2018年と同等としました。

以上から2040年になっても内燃機関車を使っているだろうということが分かりました。しかし、だからといって化石燃料を使ってCO2を垂れ流しにすることが許されるとは思えません。使用する燃料は環境負荷の小さいものでなければ許されないでしょう。また、仮に化石燃料を使用せざるを得ない場合でも、より熱効率の高いエンジンでなければ許されないでしょう。

このような背景もあって、日本では2010年代に内閣府主導のSIP研究開発プログラムにより、内燃機関エンジンの熱効率向上の研究が進みました。既に50%を超えるレベルに達しています。そして、今、ドイツや米国でも、日本の成果を横目にほぼ同様の研究プロジェクトを実施しています。燃料についても、以前からバイオ燃料については話題に上っていましたが最近ではe-fuelの話も出てきました。

e-fuelとは、再生可能エネルギーで作られた電力を使用して製造される合成燃料を意味します。具体的には、再生可能電力により水素を作ります。一方、CO2は発酵工場、アルミニウム精錬工場、セメント工場といった高濃度CO2排出源から捕獲します。これらから合成ガスを作り、1920年代に発明されたフィッシャー・トロプシュ法(FT法)の改良版によってFT油を作り、これから軽油、灯油、ナフサ(ガソリン)を得ます。

e-fuelには根本的な問題があることを認識する必要があります。それは、再生可能電力を使用するという部分です。なぜなら、再生可能電力をBEVと奪い合うことになるからです。奪い合いになると、どちらが効率的かという話になります。少し考えれば分かることですが、再生可能電力をわざわざ化学変換してから使うことは、直接バッテリーに蓄電して使うのと比べて効率が落ちるに決まっています。よって、エコな合成燃料を作る場合、再生可能電力を極力使わない別の選択肢を選ぶ必要があると考えます。では、どのような選択肢があるでしょうか?

水素の製造のために再生可能電力を使わない方法の1つとして、人工光合成があります。半導体技術の進歩により、太陽光を直接のエネルギー源として水から水素を作れるようになりました。気体としての水素は貯蔵や移動が難しいので、水素をギ酸などに液化する必要がありますが、これも出来るようになりました。植物の光合成効率はだいたい0.1%と言われていますが、この人工光合成では3~7%という高い効率となるので、合成燃料のための水素製造の1つの候補になりえます。

もう1つは既に事業化されているバイオ燃料です。米国ではトウモロコシで、ブラジルではサトウキビで、食料と燃料の両にらみの形で事業化しています。どちらもエタノール化して石油に10%程度混ぜてCO2を抑えています。現在はその量を20%くらいまで増やそうとしています。トウモロコシは生産性が低く、しかも育成に多大なエネルギーと窒素系肥料の投入が必要であり、バイオ燃料といっても余りエコではありません。窒素酸化物はCO2よりもずっと温暖化効果が高いためです。一方、サトウキビは、トウモロコシに比べるとずっとエコなバイオ燃料源です。

バイオ燃料の問題は食用との競合です。人口密度の高い国では、食用と異なる燃料用植物を育てる場所がありません。そこで注目されているのが、森林、荒地、そして水辺です。セルロースをメタノールに安価に変えられる技術が出来るようになりつつありますが、森林伐採は地球の酸素源を減らすのでリスクが高いでしょう。荒地と水辺で繁殖する植物には生存力が高くしかも生産性の高いスイッチグラスやホテイアオイ、ガマ等があるので、これらの活用は1つのソリューションになりえます。さらには藻類もあります。陸上植物はメタノールづくりには向いていますが、炭化水素燃料づくりには向いていません。これに対して藻類は、直接、炭化水素を作れるものがあり、しかも、陸上植物と比べて10倍から100倍の燃料生産性があります。

もちろん問題がないわけではありません。バイオ燃料はやはり生産性が低いのです。太陽電池と比べると生産性の低さが分かります。太陽電池には40%を超える高効率のものもありますが、ここでは10%と低めに考えます。地上に届く太陽エネルギーは約1000W/m2ですので、10%効率だと100W/m2の出力となります。これに対して、サトウキビは0.43W/m2です。藻類であっても0.6~6W/m2であり、とても太陽電池には敵いません。

このように、電力生産の効率だけを考えるならば、前述の選択肢の中では太陽電池が最も優れ、次が人工光合成による水素製造、最後にバイオ燃料の順番となります。しかし、人間が生きていくためには穀物が必要であり、それらは周辺の多様な植物に支えられています。植生は複雑性そのものであり、まだ、人間が良く理解できていない分野です。人間が勝手に植生を変更すると、予想もしないことが起こる危険があります。よって、現在の植生を維持した範囲で、荒地や水辺の植物・藻を再生可能エネルギー源として活用する。食用穀物についても、食べられない部分が大量に発生するので、これをバイオ燃料化する。あるいは、人間や家畜が食べる以上に生産して余剰分をバイオ燃料化するという道も残しておくのが妥当だと思います。

事業化に成功しているブラジルのサトウキビモデルを見てみましょう。彼らの事業モデルでは、市場の要求が決まるのを待ってから、砂糖にするかバイオ燃料にするかを選べるようになっています。このモデルにより事業が成立することは実証されているので、サトウキビと同等以上の生産性のある食用穀物であれば水平展開できるはずです。イネ科植物は生産性が高いので、コメについても減反などせずに、余剰分をバイオ燃料化することがベターな選択だと思います。再生可能電力が全ての自動車をBEV化を充電できるようになるまでの期間については、化石燃料を使う内燃機関車が必ず残るのですから、バイオ燃料という選択肢を持ってCO2発生を抑えていくのが現実的な策だと考えます。

人間は、まだ、地球の複雑性環境を完全に理解できていません。よって、再生可能エネルギーの選択肢を選ぶ場合でも注意が必要であり、生産効率だけで安易に選択するのはリスクがあるのだという話をしてきました。類似の話は、企業における事業戦略にも当てはまります。業績だけを考えると、既存事業に重点を置くのは当然です。しかし、その事業が永久に続くことはなく、必ず寿命があります。今日は、ものづくりからサービスに価値が移りつつあり、ビジネス環境が激しく変化する時代です。このため、どの企業も、新事業開拓にも力を入れています。しかし、企業間で差が付くのは、実は新事業を開拓した後です。

新事業に成長性があることが分かった瞬間、多くの企業がその市場に参入してきます。つまり、そこから先は持続的なイノベーション競争の時代に入ります。かつては特定分野の専門人材を確保すれば、この持続的イノベーションを生き残ることができました。しかし、今日求められる顧客価値はより複雑化してきました。これに応えるには、組織内外を含めた多様な専門人材を活かす仕掛けが必要です。その上手下手が企業の成長力を決めるといっても過言ではありません。これまでよりも一段上の複雑性を扱うことができるマネジメントが求められています。貴社は、これからの時代を生き抜くためのマネジメントの進化をどのようにして実現していきますか?

参考文献

  1. メタノールエコノミー、G.K.スリャ・ブラカーシュ、2010
  2. IEA Data & Statistics
  3. ゼロエミッション時代のエンジン技術第2回、日経オートモーティブ、2020年1月
  4. 欧州レポート、日経オートモーティブ、2020年3月