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製品進化とマネジメント風景 第114話  プラスチック製品の持続可能性における進化とマネジメント

今日、人間が使用する材料として、重量的に最も大量に消費しているのはセラミック材であるコンクリートであり、2番目に木材、3番目に金属の鉄が来ます。4番目はやはりセラミック材のアスファルトですが、5番目以降は、セラミック材のガラスおよびプラスチック材であるポリエチレン、ポリ塩化ビニル、プロプロピレン等がドングリの背比べで並びます。 

プラスチック材の密度は金属よりも低いので、体積的には鉄と同じくらいの量が使われている勘定になるでしょう。プラスチックの大量生産が始まったのは20世紀になってからですが急成長を遂げ、今日の人間社会にとって必要不可欠な存在になりました。 しかし、これからの脱炭素社会において、どう変化していくかが問われています。

主要なプラスチックは5大プラスチックと呼ばれます。5つの選び方は複数ありますが、ここでは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)の5つとします。 

PE、PPはフィルム、食器、家電、自動車、医療製品など、PSは包装、食器発泡材、住宅断熱材などに使われています。PVCは建材用途が多く、上下水道のパイプや床材、電線被覆材に使用されます。PETはペットボトルや卵入れなどの食品容器として使われています。PVCを別にすれば、他の5大プラスチックは包装材や食品容器という一時的な用途が多いので、使い終わるとゴミとして廃棄されます。ここから、ゴミ問題が起こりそうな気配があることを察知できるでしょう。 

プラスチックを分類する定義として、熱可塑、熱硬化というものがあります。前者は非晶質なので熱を加えると溶けてリサイクルしやすいのですが、後者は結晶に近い構造であるためリサイクルに向きません。熱硬化材は強度や剛性が高いのでエンジニアリングプラスチックとして自動車や航空機など、耐久性が必要な製品に使用されています。ただ、その生産量は熱可塑性プラスチックの10分の1くらいと少ないため、今回のコラムでは触れません。 

さて、前述したようにプラスチックの歴史は半世紀強と短いにも関わらず、今日、大量消費されています。なぜ、ここまで急速に使われるようになったのでしょうか?  

理由は大きく2つあります。第1はプラスチック原料の化石燃料が安かったことであり、もう1つは成形性が非常に良好で、複雑形状をやはり安く製造できたからです。後者について、セラミックス材や金属材に対する優位性は圧倒的でした。 

原料を安くできたのは、若干の誤解を覚悟しつつ単純化して述べると、それは量産効果が大きいからです。大雑把な話ですが、設備コストは通常、寸法の2乗に比例しますが、生産量は寸法の3乗に比例して増えます。よって、寸法を2倍にすると設備コストは4倍になるものの、生産量が8倍になり、生産コストは1/2になるという理屈です。それ故、生産量が少ないとコスト競争面で不利になります。 

安くて成形性が良いから普及したのだと述べましたが、プラスチック材が出現した当初は、実用化に際して3つの短所がありました。燃えやすいこと、衝撃に弱いこと、及び成形性が悪化しやすいことでした。いくら安くても致命的な欠陥があれば製品には適用できません。 

これらについては、プラスチックの樹脂に添加剤を混ぜることにより解決されました。具体的には難燃剤、柔軟剤、可塑剤の添加です。これらの添加剤によって機能上の問題の多くが解決されたのですが、この添加物が後に健康に悪影響を及ぼすのではないかと疑われはじめます。

安いので大量消費され、結果として大量のゴミが発生しました。木材で製造されたものであれば、放置すればいずれ微生物により生分解されて土に戻ります(条件によっては化石燃料に変身する場合もありますが)。 

一方、旧来プラスチックは生分解されないものが多かったので、使用後はゴミとなり、そのゴミは増える一方でした。日本ではゴミ対策としてプラスチックゴミを焼却し、熱や電気に変えて有効利用しました。日本ではこれを一種のリサイクル行為と考えますが、他国、特に欧州では焼却をCO2発生源と見なす傾向があります。脱炭素が強く主張される時代になってきたので、焼却はだんだんとしにくい状況になるでしょう。 

他方、プラスチックは太陽光の紫外線に曝されると分解をはじめ、小さな粒になります。生分解されないものが多いので、消滅せず、また水にも溶けないので、川から海に入り、海中を漂い続けます。これがマイクロプラスチックとして問題視されるようになりました。魚介類がこのマイクロプラスチックを食べ、そこに含まれている有害成分が魚介類の体内に蓄積されて濃度が上がり、その高濃度のものを人間が食べるからです。 

マイクロプラスチックの危険性は2つの観点で語られます。1つは、海洋中に漂うPCB等の毒性物質を吸着してしまうという観点です。もう1つは、有毒だと疑われている添加剤を含んでいるという観点です。その一例は可塑剤として使われるフタル酸です。 

フタル酸は、ネズミ等のげっ歯類に対しては環境ホルモンとして悪影響を及ぼすことが試験により確認されています。しかし、人間に対しては健康への影響はないとされています。 

上記の記述をどう受けとめるかは立場に依ると思いますが、ネズミに影響があるならば、量が増える、あるいは濃度が高くなれば人間にも影響があるのではないかと考えるのは自然です。もちろん、現時点でその科学的根拠はありません。しかし、歴史的には、過去に正しいとされた科学的見解が、その後に実は間違いだったと修正されるケースは枚挙にいとまがありません。

よって、「今はこれが科学的に正しい」と言われても、それが永続的に正しいという保証はないのです。そこで重要になるのが、『科学的に正しい』という説明を鵜呑みにせず、その妥当性を検証するプロセスです。そのプロセスで、『長期間、科学的な正しさが持続するか否か』を判定するのです。一見、難しく見えますが、実は難しい話ではありません。

この検証の結果から、「今の科学的見解は近いうちに変わる可能性があるぞ」と察知したら、慎重に扱うのが無難です。一時的に企業利益に悪影響を及ぼすかもしれませんが、間違えると企業の生存そのものに波及してしまうからです。

そういう意味で、プラスチックの機能性を高めるための添加剤に対する監視は、今後、より厳しくなると予想され、企業はその点に配慮して材質を選定する必要があるでしょう。 

今日は持続可能性が重視されるので、プラスチックについてはCO2低減に加え、生分解性をも考慮しなければなりません。具体的な方向性を考えると、やはりバイオプラスチックの利用ということになるのだと思います。 

バイオプラスチックという言葉は注意が必要です。なぜなら、バイオ原料由来のバイオマスプラスチックと、原料に依らずに生分解性のあるプラスチックとを合わせた総称だからです。化石燃料由来の材料も含まれているということです。ただ、持続可能性社会を目指す動きに合わせて、旧来のプラスチックが、少しずつバイオプラスチックに置き換えられつつあることは確かです。 

化石燃料由来であっても、生分解される、あるいは海洋分解されるプラスチックならば、微生物がこれらを無害化してくれるので、CO2増の懸念は残るものの、1つの現実的なソリューションだと言えるでしょう。 

バイオマスプラスチックはバイオ原料由来なので、すべて生分解されると勘違いされることがありますが、実は生分解されないものも含んでいます。生分解されるバイオマスプラスチックは環境面で最も好ましいプロダクトです。その代表例は、デンプン由来のポリ乳酸です。 

一方、生分解されないものはゴミとして廃棄されます。バイオPEやバイオPA11(ポリイミド系)があります。ただ、バイオ原料由来なので、燃やしてもカーボンニュートラルと見なすことが出来ます。よって、これはこれで1つの現実解だと言えるでしょう。問題は、バイオ原料由来だと製造コストが高くなりやすいことです。コストダウンできるかどうかが大きな課題です。 

日本も世界の他国も少しずつ、旧来のプラスチックからバイオプラスチックへの移行を進めています。ただ、その方向性は日本と他国とで少し異なるようです。世界の主流は、CO2ニュートラル効果のあるバイオ原料ベースよりも、原料に依らず生分解性の高いプラスチックに力点を置いています。

代表例は、農業用シートや使い捨て食器に使われるポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)です。 農業用シートは土と混ぜ合わせれば、また、食器は残食材と一緒にコンポスト化して肥料にして再利用できます。『面倒がない』という点と『持続可能性が高い』という2点の組合せが顧客に評価されているのでしょう。

日本が独自性を持つ事はとても良いことなのですが、プラスチックに関する限り、その生産コストは小規模生産では顕著に高くなります。機能・性能が飛び抜けて優れていれば買う人もいると思いますが、そうでなければ売れません。

例えば、バイオベースの半導体という生分解性を持つ興味深いコンセプト製品があります。これについても、原料をバイオベースにしたことでコストが大幅アップするならば、化石燃料ベースの製品に負けてしまうのではないでしょうか。 

また、現在のバイオマスプラスチックの主流はデンプン由来です。生産量が増えてくれば、いずれ食物との競合を意味します。食物との競合は、上手に調整する仕組みを作れば非常に有効なものになりえますが、放置すると問題を引き起こすことは目に見えています。

上手に調整するには、世界を巻き込んだ仕組みづくりが欠かせません。しかし、それには長い時間がかかるものです。よって、深謀遠慮なく先走ってしまうと、後で苦しい立場に追い込まれることになるでしょう。

一方、食物と競合しないセルロースやリグニンと言ったバイオ原料をバイオマスプラスチックに使えれば良いのですが、技術的なハードルが高く、まだ、未熟です。

よって、バイオプラスチックについては、食物との競合を調整する仕組みを構築することを考えながら、あえて穀物をつかう方向に進むのか、あるいは、技術的には難しいが、穀物と競合しないバイオ原料を使う方向に進むか、戦略的に難しい岐路に立っているのだと言えるでしょう。