〒186-0002
東京都国立市東2-21-3

TEL : 042-843-0268

製品進化とマネジメント風景 第37話 リサイクル技術の進化と都市鉱山マネジメント

私が子供の頃から、日本は資源の無い国だから、資源を輸入して、付加価値のあるものづくりをしなければ生きていけないと言われてきました。金属素材やエネルギーの供給が不安定な期間が長かったせいか、あるいは国全体に「もったいない」という意識が浸透しているためか、リサイクルに関しては世界的な先進国になっています。リサイクルというのは産業視点では静脈にあたり、動脈産業と比べると地味ですが、持続可能性を考えた時には必須の存在です。それは、トイレの無いオフィスや住宅があり得ないことを考えればすぐに分かります。

日本がものづくり競争力を持つ自動車を例にあげると、リサイクル率は既に99%に達しており、世界的に見てもずば抜けています。自動車を構成する材料の重量概算値は、鉄70%、合成樹脂8%、アルミニウム6%、銅1%弱、白金等のレアメタル0.01%です。

資源生産では、目的とする資源1kgを得るために採掘され廃棄される物質が多く発生します。これを指標化したものがTMR  (Total Material Requirement) です。この数字が小さいほど、地球環境への影響は小さいと言えます。例えば、鉄のTMRは8kgですが、銅は500kg、レアメタルの一種である白金は520ton、金では1100tonです。白金は、鉄と比べて同じ1kgを得るために65000倍もの物質総量が必要ということです。自動車について、使用されている鉄とレアメタルの環境への影響を比較すると、レアメタルはたった0.01%しか使用していませんが、物質総量としては鉄の約10倍を消費することになります。生態系は炭素を中心とした循環系を作っており、ゆえに持続可能なのです。ものづくり産業の規模が拡大し、我々の生活環境にも影響が見え始めました。持続可能な活動とするためには、生態系と同様な循環系が必要なことは誰にでも分かることです。

現在、日本は、ものづくりの高付加価値化を目指して進んでいます。高付加価値の部材については、半導体、金属、セラミックスのどの分野においても、レアメタルとレアアースの使用量が増えてきています。具体的には後述しますが、半導体と自動車の電動化(EV)がそのドライバーとなっています。その結果、レアメタルとレアアースのリサイクルは喫緊の課題となりつつあります。いよいよ都市鉱山を本格的に開発する時期がやってきたのではないかと思います。ちなみに、都市鉱山という言葉の起源は1980年代の東北大の先生にありますが、レアメタルとレアアースに焦点を当てた形でこの言葉を広めたのは物質・材料研究機構の原田幸明氏です。私も、航空エンジン材料のリサイクル観点に関して原田氏と数回、懇談したことがあります。

では、今後、需要が増えるレアメタル、レアアースは何でしょうか。また、この需要増に対応するために、リサイクル技術はどのように進化していくのでしょうか?

今後成長が見込まれる分野をあげると、まず、再生可能エネルギーとしての太陽電池であり、次に通信分野としてスマートフォン更新と新たな分野であるIoTが考えられます。これらの分野では透明電極が必須であり、その原料は酸化イリジウムスズ(ITO)です。これについてはレアメタルであるインジウムInの調達が鍵となります。通信用電子部品も、IoTが進むにつれてスマートフォンの何倍もの需要が生じることが予想されます。照明関係でも、省エネ要求によりLED需要が増えるでしょう。その結果、金、銀および白金族が益々必要となります。

自動車についてはEV化が想定されますが、それでも当分、内燃機関自動車は大量に生産されます。排気ガス浄化用の触媒としての白金族の需要が維持されるということです。自動車のEV化が進むことはバッテリーとモータの需要増を意味します。この結果、レアメタルであるコバルトCoとレアアースであるネオジムNd、サマリウムSmの需要が増えます。Coは、バッテリーや磁石だけでなく、既存の産業基盤である超硬工具用や発電・航空用ガスタービンの高温用超合金などでも根強い需要があり、資源の奪い合いが起こりやすい元素です。レアアースは産出国の独占率が高く、サプライチェーンが脆弱です。これらの産業を発展させるには、リサイクル技術を用いた都市鉱山マネジメントが不可欠と考えられます。

さて、ここから、現在のリサイクル技術を概観します。最初はインジウムInです。レアメタルの中でもレアな部類であり高価であり、需要の大半はフラットパネルディスプレイ(FPD)用です。亜鉛製造時の副産物として得られます。亜鉛精錬ダストを酸で溶かし、抽出材を使って溶媒抽出します。硫化物を分離し、亜鉛によって置換を行い、スポンジInを得ます。あとは他の金属と同様に鋳造し、電解精製により高純度のInを得ます。FPD製造プロセスでは、スパッタリングによって透明電極を成型しているので歩留まりが低く、高価な酸化インジウムスズ(ITO)の残材は100%回収しています。高濃度の廃液はイオン交換樹脂により固液分離し、Inの水酸化物として回収します。ユーザー使用後のFPDが大量にありますが、回収できたものは粉砕・溶出して同様の方法でInを回収しています。

次は白金族と金、銀です。リサイクル方式には湿式と乾式があります。湿式は小規模設備で実施できるので事業化しやすいメリットがあります。よって、装飾品、工業用ルツボ、機械加工後のくず、使用済ターゲット材などの高品位スクラップのリサイクルに適しています。王水などの酸溶液により金属を溶解し、白金族単体として、あるいは化合物として分離します。ただし、多数の重金属を含む廃液が出る場合には、その廃液処理が問題となります。乾式は、銅や鉛の製錬設備・精錬工程を活用します。大規模な設備と大量のエネルギー投入量が必要となります。低品位なスクラップ向きであり、自動車用排ガス浄化触媒、パソコン・スマホ等の家電電子基板のリサイクルに向いています。

コバルトは多分野で需要のある材料です。元々は、ニッケルや銅製錬の副産物として得られます。ニッケル製錬ダストを原料とする場合には、硫酸による浸出後、溶媒抽出して塩化コバルト液を作ります。溶媒抽出では、どの元素でも抽出剤が鍵となります。ここで使用されるのは、TOA (Tri-n-octylamine)や酸性有機リン化合物などです。その後、電解精製により高純度のコバルトが得られます。自動車のハイブリッド化、EV化が進むと大量のリチウムイオン電池廃棄物が出てきます。これらのリサイクルは、焼却、粉砕して正極材を取り出し、多段階の溶媒抽出を行い、マンガンMn、コバルトCo、ニッケルNiおよび炭酸リチウムを回収します。希土類磁石としては、今はネオジムNd磁石の時代ですが、少し前まではサマリウムコバルトSm磁石が一番でした。もしかすると、高出力化によって磁石の使用温度が上がり、再びSm磁石が注目を浴びるようになるかもしれません。Smのリサイクルは、工場内の固形くず、研磨粉を収集し、溶媒抽出後、電気精製されて回収されています。とはいえ、Smの使用済磁石のリサイクルに関しては事業化がかなり難しそうです。

ネオジムNdは、今後、需要の急増が見込まれるレアアースの筆頭です。レアアースはどの元素も溶媒抽出法を用いて鉱石から分離・抽出します。たくさんの種類があって、それを単離するにはものすごい手間がかかります。ですから、一度抽出したものは大事に再利用しないともったいないわけです。工場内の固形くず、研磨粉はSmCoと同様に収集され、リサイクルされています。Ndについては使用後磁石のリサイクルも実施されています。特に核磁気共鳴画像法装置には1台あたり1000kg以上の磁石が収集でき、ハイブリッド車やEV車からも数kgが収集できます。リサイクル源として非常に価値があります。

以上のように、今後、いくつかのレアメタル、レアアースの需要増が見込まれ、リサイクル事業が成長していくと予想されますが、過去の事例と同様、生産量が少ないうちは環境問題は顕在化しません。しかし、二けた成長が続いて世界中でリサイクルが行われるようになると、過去の歴史が示すとおり、廃液による環境汚染が深刻化していきます。高濃度の廃液はリサイクル源であり、資源として扱われますが、低濃度の廃液は廃棄物として扱われ、生活圏に排出されることになります。金、銀のように反応性が低い金属は食べても問題ありませんが、反応性の高い重金属は人間の身体に入って影響を与えます。放置することはESG, SDGsの理念に反し、社会的信用を失うことになるでしょう。では、これらに対してどう対応するのが良いでしょうか?

参考例は人間の排出する汚物処理に見つけることができます。それは微生物の活用です。生態系は、他の生物の排出物から有機物の栄養を取り出す循環系が出来上がっています。生命活動では金属元素も必要であり、人間も少量の鉄、亜鉛、ナトリウム、マグネシウムなどを取得していますが、重金属を吸収・蓄積する微生物がいます。低濃度の廃液処理には、これら微生物を使ったバイオ処理が期待できます。バイオ処理は時間がかかるという欠点を持ちますが、エネルギー消費量が低く、環境に優しい手法です。人間の排出物の対象を広げたと考えれば社会のコンセンサスも得やすいのではないでしょうか。

バイオ処理には、溶出・浸出プロセスに対応するバイオリーチング、金属を取り込んで結晶化までを行うバイオミネラリゼーション、金属イオンを吸着・吸収するバイオソープションなどがあります。

病原性がないShewanella属の細菌には金属還元機能を持つものがいます。廃液のpH調整によりインジウムをバイオソープションで回収できることが報告されています。白金族を直接身体に取り入れる細菌もいて、細胞内に白金族のプラチナPt、パラジウムPd、ロジウムRhナノ粒子を作って蓄えます。これらの細菌を遠心分離機で固液分離後、焼却するとレアメタル塊として回収できます。河川や鉱山の坑道には天然のマンガンがあり、これが好物である微生物がバイオマンガン酸化物BMOを作ります。このBMOは高い効率でCoを吸着、回収できます。ネオジムNdについても、紅藻が強酸性条件でNdやジスプロシウムDyを選択的にバイオソープションにより分離できることが報告されています。

世の中のESGへの流れは、金融機関による宣言によって加速していくと思われます。今後、静脈系が担保されない動脈系産業は徐々に窮地に追い込まれていくことでしょう。これまで、企業の生き残り戦略のメインは専業化と差別化でした。今後もそれは変わりませんが、今後は静脈系にも目を向けて事業を行っていく必要があります。自社のやっていることだけ見ているという姿勢では、事業戦略を誤るリスクが高まってきているということです。

このように、製品のものづくりにせよ、製品を活用したサービスにせよ、静脈系を含めた製品設計、サービス設計が必須の時代に入りました。ものづくりのサプライチェーンについては、動脈系はもちろんとして静脈系も含めて全体システムを俯瞰して理解し、自社のポジションを設計していく必要があります。この結果、考慮すべきことは増え、必要な専門分野も増え、多くの異分野の専門分野を統合する仕掛けが重要になりつつあります。アマゾンのベゾスCEOも「マネジメントは人の善意ではなく仕組みが重要である」と言っています。要素技術や生産技術の開発・量産化においても多分野の社内外専門人材の知恵を統合できるマネジメントの仕組みづくりが鍵となりつつあります。

貴社は、製品やサービスの動脈系と静脈系のサプライチェーンを考慮しつつ、今後の事業戦略を実現していくために、どのようにしてマネジメントを進化させていきますか?