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製品進化とマネジメント風景 第81話 仮想化技術の進化と利用のマネジメント

最近の新聞を見ると、ビジネスのキーワードの1つとして「仮想化」という言葉をよく見かけるようになりました。IT用語のひとつとしてですが、その意味をひと言で表現するならば、「ハードウェアをソフトウェアとして抽象化して管理すること」です。

では、ハードウェアの仮想化とは何でしょうか? それは、ハードウェアの機能を分割したり、あるいは統合することができ、それらの機能を制御できるということです。別の言い方をすると、「異なるものを同じものであるように見せること」であり、逆に「同じものを異なるように見せること」です。

「何を抽象的なことを言っているんだ?」と思う人は、会社を思い浮かべると分かりやすいでしょう。

2つの会社が合併することは、異なるものを同じであるように見せることであり、逆に、会社を分割して子会社を作ることは、同じものを異なるように見せることだからです。中にいる人間や設備という実体は変わりませんから、会社が仮想的な存在であることが分かります。

会社とか法人という仮想化はずっと昔に発明されていましたが、仮想化という言葉は使われていませんでした。この言葉が使われ始めたのはIT分野であり、せいぜい半世紀前からです。

当初の目的はコストの削減でした。コンピュータや周辺機器の性能が向上し、1人のユーザーでは使いきれない場合が増えてきたからです。これは、ムーアの法則に沿って半導体の微細化が進み、演算性能が指数関数的に向上したからです。

もちろん、コンピュータの能力をフルで使う人もいますが、普通の人はその能力の半分も使っていないでしょう。そこで、特に多数のコンピュータを持つ会社において、仮想化によって1台のコンピュータを複数ユーザーでシェアできるようにし、コストを削減しようとしたわけです。

前述の目標が達成されると、次の目標として便利さの追及(生産性の向上)が始まりました。これはIT世界だけでなく、現実世界との融合を含めて現在進行中です。ただ、便利さを追及すると、秘密保持上の問題が生じるのは世の常であり、現在はセキュリティ上の問題の解決が日増しに重視されるようになってきました。

ビジネスの視点では、仮想化は4つのITビジネス領域として存在感を持つようになりました。特に目立つのがクラウドです。クラウドは当初、インターネット空間の内部に留まっていましたが、その後、現実世界を巻き込みながら発展を始め、現在に至っています。

本論に入る前に、少しだけ仮想化の歴史を振り返ります。IT分野であっても仮想化の歴史は意外と古く、1965年のIBMメインフレーム・コンピュータが元祖といわれています。具体的には、1台のコンピュータを多数の人間で使用する仕組みとして仮想化が用いられました。Time Sharing System (TSS)と言えば通じる方もいるでしょう。

1つのコンピュータ上に複数の仮想マシンを並べて使えるようにしたわけです。私自身も大学生時代には、このTSSが主流であり、コンピュータを使うには計算機センタまで足を運び、端末の前に座ってキーボードを通してTSSを使っていました。使用者が増えるとすごく反応が悪くなるため、早朝や夜間に作業したものです。

現在はTSSよりも進んだ管理方法が採用されていますが、根本的な考え方は同じです。これがコンピュータの仮想化に相当します。最初の仮想化は約60年前に実用化されたにもかかわらず、その進化はしばらく停滞することになりました。

なぜなら、その後のコンピュータ市場の主役はメインフレームからパーソナル・コンピュータ(PC)やエンジニア・ワークステーション(EWS)に変わり、これらの計算能力が非力だったためです。1990年代になって一部のEWSで仮想化が実現されましたが、本格的に仮想化の進化が再開したのは2005年以降です。

近頃は、何にでも仮想化という言葉を付けたがる傾向があるため混乱しそうになりますが、IT分野の仮想化は前述したように、大きく4つに分類されます。コンピュータの仮想化、記憶域の仮想化、アプリケーションの仮想化およびネットワークの仮想化です。

ただ、この分類はやや恣意的です。なぜなら、記憶域やアプリーケーションの仮想はコンピュータの仮想化の一部であるとも言えるからです。実は、演算器(CPU)、メモリ、キーボードの仮想化についても実現されているのですが、上記の分類に入っていません。

記憶域の仮想化とアプリケーションの仮想化が特別扱いされているのは、クラウドサービスとして早期にビジネス化され、個人でも簡単に使えて広く認知されるようになったからと言ってよいでしょう。

ですから、IT分野に限れば、仮想化はコンピュータとネットワークの2つに限定できそうです。ただし、後述するように、仮想化はIT世界と現実世界の融合に進みはじめたため、新たな仮想化の言葉が出てくるでしょう。

さて、本や雑誌やウェブサイトを見ると、サーバーの仮想化、デスクトップの仮想化という言葉をしばしば目にします。これらもコンピュータの仮想化の1つです。このデスクトップの仮想化は、私個人としてはひとりのユーザーとして重宝しています。

それは、Windowsマシン上にLinuxなどの別のオペレーションシステムも搭載して使えるからです。もちろん、Windowsだけで使用しても便利です。2つ、3つの異なる仕事を同時に立ち上げておき、時々、交代しながら使うことができるからです。

もう1つ、個人的に恩恵を受けているのがアプリケーションの仮想化です。例えばマイクロソフトのOffice365 のon the webあるいはBusiness Standardを使えれば、出張先でプレゼンが必要な場合でも、ノートPCではなくスマートフォンを持参すれば事足りるようになりました。

スマートフォンからでもPCと同じアプリを動かしてデータを加工したり表示できます。加えて、今のスマホにはPC用ディスプレイの画面全体に表示する機能が搭載されているので、PCとまったく同じように見せることができるのです。

個人的な意見ですが、もうデスクトップとスマホがあれば十分であり、ノートPCは不要な時代になったのかもしれません。脇道となりますが、このように思うようになった私自身の体験を少しだけ記載します。

最近のノートPCには重量が800gくらいの超軽量のものがあります。軽さに魅かれて2年前に購入しました。時間の経過とともに、ブラウザ、オンライン会議アプリ、アンチウイルスソフトなどの機能、セキュリティが向上し、その結果として、メモリの使用量がどんどん増加していきました。

そしてついに、いくつかのアプリを開くとメモリ不足に陥る状況になりました。これでは拙いと思い、メモリを増強しようとノートPCの裏ブタを開けた所、メモリがマザーボードに直付けされ、従来のノートPCのように簡単に増強できないことに気づきました。

知らずに買った方も悪いのですが、メモリを増強できない構造は致命的です。マザーボード全体を交換するとなると費用も高く、故障リスクも高まるので手を出すのを止めました。この一件でノートPCへの興味が急速に失われてしまいました。

さて、本題に戻り、ここからはクラウドが出てきた後、現実世界を巻き込みながら2つの方向性に進み始めたという話に移ります。

現実世界を巻き込むというのは、仮想化の範囲がコンピュータを超え、人間が使用するあらゆるモノに及んでいくことです。人によって呼び方は異なりますが、サイバーフィジカルとかデジタルツインという言葉が一般的に使われるようになりました。

IoT、ドローン、自動運転車、自動工場ラインなどの分野でビジネス化が進んでいます。また、IoTにより、様々な機器からデータを大量に得られるようなり、そのデータがAIの学習に使われるようになりました。

そのAIは、前述の自動化の精度向上にも当然使われていますが、営業ツールとしても発展しました。会社や個人がインターネットにアクセスした情報を収集し、何に高い価値を感じているかを評価・分析し、個人単位で製品やサービスを提案するようにもなりました。

IoTが進展することで予想されたことですが、最近、トラック運転手の手首にセンサ付きの腕輪を装着し、運転中の体調をモニタリングする動きが出てきました。

勤務時間中に限るということではあるものの、安全管理、健康管理という大義名分の下で、プライバシの侵食が少しずつ始まりつつあるように感じます。この話はプラス面とマイナス面の両方があり、即答できない難しい問題です。

もう1つの話は、ITの世界に、現実世界のような、いくつもの仮想世界を作ってビジネスを行う試みであり、メタバースなどと呼ばれています。

1人の人間は、現実世界では唯一の存在ですが、社会の中ではいくつもの役割をこなし、それぞれの顔を持っています。例えば、職場では職場の顔、家庭では家庭の顔、趣味の世界ではまた別の顔という具合です。

参加するコミュニティの数だけ顔を持っていると言えるでしょう。現実世界だけでシンプルな生活をする人には不要の存在ですが、色々やりたい人は、現実世界の時間が限られているので、移動のない仮想世界に入ってその欲求を満たすことになるのでしょう。

さて、ここからはネットワークの仮想化の話に移ります。ネットワーク機器についても、それを仮想的に多数に分割し、個々を独立のネットワークとして扱えるようになりました。仮想化を管理するソフトウェアを使えば、会社の事業部別、あるいは、部門別、さらには個人別に流れる情報を細かく制御できるようになったのです。

ネットワークの仮想化は、これから飛躍的に成長すると予想されるIoT事業で威力を発揮するでしょう。従来の管理の仕方をしていては数が増えると耐えられなくなると予想されるからです。また、情報の流れを適切に設定すれば、高いセキュリティを維持することも可能だからです。

一方で懸念事項もあります。1つは物理的なサーバーが故障した際の問題であり、もう1つは仮想化の設定を行う管理者(ハイパーバイザー)への権限の集中に関係する問題です。

前者の問題は、少ない数のマシンで多数のユーザーにサービスを提供できるようになって投資的には良い話ですが、サーバーやルーターが故障すると、そこにつながっている多数のコンピュータが一斉に接続不良を起こすことを意味します。

1つのハードウェア故障の及ぼす影響が、仮想化により従来よりも拡大するということです。とはいえ、バックアップをしっかり取っていれば、理論的には同じ仮想化環境をすぐに復旧できます。理論はそのとおりなのですが、問題はその検証です。

仮に会社全体、あるいは事業部全体についての検証をする場合、大量のユーザーへのサービスを一時中断しなければなりません。文句が出てきそうですよね。ここにBCP(Business Contingency Plan) 対応の難しさがあります。

サービスの一時中断への反対が強い場合には、小規模な仮想的な環境を作って検証をするだけとなります。その検証にも意味はありますが、現実の大規模な環境下で本当に正しく機能するかどうかは、実際にやってみなければ分かりません。

銀行のATMや携帯電話の通信で大規模な障害が起こる場合がありますが、今後はIoTビジネスを行う会社でも起こる可能性があるということです。

後者の問題、ハイパーバイザーへの権限の集中に移ります。昔ながらの境界型の情報セキュリティシステムは、一度内部に侵入されると脆弱であることが指摘され、ゼロトラストなシステムへの移行が求められるようになりました。

ネットワークの仮想化はスイッチにより、各個人への情報の流れをすべてソフトウェア上で制御でき、また、モニタリングにより異常を検知できるようになっていますので、ゼロトラストを実現する上で非常に有効です。

問題は、全体を管理するハイパーバイザーが、会社全体の情報の流れをすべてコントロールでき、ある意味で「情報の神さま」のような存在になれることです。

これを防ぐには、ハイパーバイザーの権限を分散する必要があります。ただ、いくら分散しても、経営者が自分の眼でそれを確認できなければ、形だけの分散になってしまいます。

そういう意味で、これからの時代の経営者は、情報ネットワークの仮想化がどのように設定され、情報の流れがどのように制御されているかを、チェックできるだけのITリテラシーが必要になるというだろうと考えますが、いかがですか?