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製品進化とマネジメント風景 第67話 再生可能エネルギー増に対応するための蓄エネルギーマネジメント

はじめに、日本のエネルギー事情について大雑把におさらいをしたいと思います。環境庁の公表している2020FYの統計データによれば、1次エネルギーの供給量は18×10^18[J]です。ただ、消費しているのは12×10^18[J]であり、約1/3が無駄に失われていることが分かります。

1次エネルギーというのは、生産したエネルギーです。なぜ、生産したエネルギーの1/3ものエネルギーが失われるかと言えば、それは燃料を燃やした熱を有効な仕事に変換するシステムの宿命です。

ご存じのようにガソリン車が一般道を走った時のエネルギー効率はせいぜい20~30%です。火力発電所でも、大型ガスタービンならば60%ですが、ボイラーと蒸気機関を組み合わせた汽力発電だとせいぜい50%レベルです。

燃料を燃やした熱をそのまま使える場合には、ずっと高いエネルギー効率となりますので、全体を総合すると65%くらいのエネルギーを有効に使用できているということです。電気自動車に乗っている方には申し訳ありませんが、充電した電力が火力発電から来たものならば、むしろハイブリッド車を運転した方がCO2排出は少ない可能性もあります。

さて、次に、消費されたエネルギーの内訳をもう少し詳しく見て行きましょう。約3割は電力ですが、残りの7割は熱として利用されています。殆どの熱は燃料を燃やして得ているので、CO2を排出します。

2020FYの電力生成は、火力発電が約76%、太陽光発電が8%弱、水力発電も8%弱、原子力発電が4%弱という内訳です。つまり、日本のエネルギーの殆どは化石燃料によって賄われています。そのため、世界からCO2を出しまくっていると名指しで非難されるようになってしまいました。

そこで、再生可能エネルギーの導入が急ピッチで進み始めました。水力発電は伝統的な再生可能エネルギー源ですが、自然への影響も大きく、現状からあまり増やすことは出来ません。現在増えているのは、やはり太陽光発電と風力発電です。

九州では太陽光発電能力がかなり増強されました。しかし、せっかく増えたのに、その発電量を制限する機会が増えています。実は、同様のことが米国カルフォルニア州でも起こっています。太陽光による発電量が多くなりすぎて、需要を越えてしまうので、その時間帯は発電停止とせざるを得ないのです。

何とももったいない話ですが、根本原因は、電力は需要と供給を合致させないと、システムが不安定になって、大規模停電や電力品質の悪化が発生するのです。そう考えると、電力供給事業者の方々の苦労は大変なものだと思います。私自身は、いつも高品質の電気をくれて、ありがとうという気持ちです。

ナマモノの電気を、何とか保存できるようにしようと、今、蓄電池が増強されています。蓄電池があれば、太陽光や風力に精一杯発電させることが出来るようになるからです。ただ、蓄電池だけがソリューションなのかと言うとそうではありません。

例えばリチウムイオン蓄電池を例に取ると、導入コストは高く、しかも使用回数が数千回程度に制限され、ライフサイクルコストは結構高くなります。再生可能電力は今後も増えていくでしょうが、常にベストのソリューションということはありません。そこで、今回は、蓄電以外の蓄エネルギーについても議論しようと思います。

ここからは、電力を貯める手段として、どのような選択肢があるかをみていきます。なお、数秒から数分という短時間の電力需要変動に対応する手段も必要であり、キャパシタやフライホイール等が使われますが、今回は扱いません。あくまでも、数時間から数ヶ月の蓄電手段を議論していきます。

第1の選択肢は前述の蓄電池です。リチウムイオン電池だけでなく、ナトリウムと硫黄を使ったNAS電池やレドックスフロー電池等、他の選択肢もあります。個々の違いについては別の機会に議論することとします。

蓄電池の特徴は、充電効率、放電効率がともに90%レベルと高く、無駄の少ないソリューションだということです。日々余った時に充電し、不足する時に放電するという使い方に適しています。しかし、大容量の蓄エネルギーに適しているかと問われるとコスト面、特にライフサイクルコスト面で必ずしも最適ではありません。

第2の選択肢は蓄熱です。余剰の電力や太陽光を熱に変えて貯蔵し、必要な時に熱を蒸気に変え、蒸気タービンにより発電するという方法です。エネルギーを熱に変えた場合、その規模が小さいと放熱損失が大きくなるため、大容量化が必須です。

大容量化の効用は、体積に対して表面積を小さくすることによって得られます。熱容量は体積に比例し、放熱は表面積に比例しますが、サイズを大きくすると、体積と表面積の比が急激に大きくなるため、放熱を抑えられるのです。

ただ、一番の利点は、現存する石炭火力発電所をそのまま蓄熱設備に変換できることでしょう。火力発電所におけるボイラー部分を溶融塩の蓄熱設備に置き換えれば、蒸気を生成する設備や蒸気タービンおよび発電設備をそのまま使用できます。そのため、初期投資を抑制し、工期も短縮できます。

蓄熱は成熟した技術であり安全です。欠点は蒸気タービンの効率は高くないので、再生可能電力の発電コストが高い時には蓄電池に勝てません。しかし、その発電コストが下がってくると、例えば、10円/KWh以下になってくると蓄電池に対してコストメリットが出てきます。世界では太陽光発電コストが2円/KWhレベルの所も出てきたので、1つの有力な選択肢になりそうです。

もちろん、万能ではありません。蓄電池と同様、長期の蓄エネルギーには向いていません。せいぜい数日レベルです。それ以上では放熱損失が大きくなります。そういう意味で、蓄熱は蓄電池と完全なライバル関係にあると言えます。

第3の選択肢は、圧縮空気エネルギー貯蔵です。この方法は、地下の岩塩層や炭鉱の廃坑、あるいは小型の貯蔵設備などに空気を数MPaまで圧縮して貯めます。圧縮空気の利用法としては、圧縮空気を使用してタービンを駆動して発電するタイプ、あるいは圧縮空気で揚水し、水力発電するタイプなどがあります。

日本には巨大な岩塩はなく、炭鉱の廃坑も場所が限られます。大容量の蓄エネルギーとしてはあまり有望に思えません。小型貯蔵設備を使う場合は場所を選ばず便利でしょうが、コスト競争力で劣るでしょう。

第4の選択肢は重力蓄電です。原理的には後述の揚水発電と類似性があります。余剰電力を使って、コンクリート等の重量物を持ち上げ、重量の位置エネルギーを保存し、必要な時に重量物が下がっていく力を利用して発電機を駆動するという方法です。

長所は、設備の建設から発電開始までの期間が約半年と短いことです。水力発電所だと建設に数年かかるので、臨機応変の即応性があります。初期コストも安いので、利用できる再生可能電力が安くなると競争力が上がってきます。また、長期間の蓄エネルギーが可能である点も魅力があります。

一番の短所は、高さが100m級の巨大な建造物を建設しなければならないことです。米国、中国、ロシアのように土地が余っている国には良いでしょうが、日本では建設できる場所が非常に限られるでしょう。

第5の選択肢は揚水発電です。日本では、元々、原子力発電とセットで使う予定でした。原子力の夜間電力を使って揚水ポンプを駆動してダムに水を揚げ、電力需要が高い昼間に水力発電をする方法です。1GW(1000MWあるいは100万KW)級の大容量電力の蓄エネルギーをできる能力があります。

再生可能電力との相性も悪くはないはずですが、細かい問題があって普及が進んでいません。稼働率も3%程度であり、海外での稼働率が10%程度であることを考えると、うまく使いこなせていません。

本方式は長期間の蓄エネルギーに向いているという長所があります。夏場には晴れた日が多く、太陽光も強いので太陽光発電の発電量は増えます。太陽光発電が普及し、夏場に余剰電力がたくさん出るようになった時には、揚水して水を貯めておき、太陽光の弱くなった秋や冬に使用するという使い方が可能です。稼働率は低くても、非常に意味のある蓄エネルギーができるかもしれないということです。

第6の選択肢、これが最後ですが水素への蓄エネルギーです。水素の貯蔵方法としては、気体として貯蔵、液体化して貯蔵、固体化した貯蔵の3つの方法があります。

気体として貯蔵するには、巨大な岩塩層が必要です。世界には適した所がありますが、日本には無いので選択肢になりません。高圧タンクに貯蔵する方式は理論的には考えられますが、体積が大きくなりすぎて、蓄電池との競争で勝てるとは思えません。水素の強みは、やはり長期間の蓄エネルギーにあると考えられるからです。

水素の液体化はどうでしょうか。液体化すると体積が数百分の一まで小さくなります。長期の蓄エネルギーという視点で考えると、水素利用はこれが本命でしょう。

液体化には、液体水素、メチルシクロヘキサンおよびアンモニア(NH3)等の選択肢があります。液体水素(LH2)は、再生可能電力に余剰が出れば、水を電気分解して得たグリーン水素を保存する手段になります。問題は保存時の温度が零下250℃級と非常に低いことです。

メチルシクロヘキサン(MCH)については、その特性が石油に近いので、既存の石油貯蔵設備や輸送手段が流用できる点に大きな魅力があります。

アンモニアは加圧すれば液化するので、LNGよりも扱い易く、おそらくLNG設備を流用できるでしょうから、その点は明確なメリットです。一方、毒性があり漏洩すると問題化するため、設置する場所を選ぶ必要があります。

LH2やMCHについては、住宅地の中にあるガソリンスタンドの場所に設置することはできるでしょうが、アンモニアについては住民の反対が予想されます。

最後に水素の固体化です。水素吸蔵合金の技術が向上し、コストも下がってきたため、選択肢の1つに上がってきました。しかし、重いので移動する輸送機械には使えません。飛行機や車はもちろん、船にも使えないでしょう。応用範囲が狭いかもしれませんね。

以上を整理すると、数時間から数日までの蓄電に関しては、蓄電池と蓄熱が有力候補と考えられます。一方、季節をまたいで蓄エネルギー出来る候補としては、重力、揚水、水素の3つです。昨年末から石油が高騰したため、備蓄放出の話がありました。さらにロシアのウクライナ国境問題に関連し、米国から欧州へのLNG供給支援の依頼がありました。こういう事態を目にすると、備蓄が如何に重要かを再認識させられます。

日本のエネルギー備蓄は、現在、石油とLNGがメインです。石油については国家備蓄と民間備蓄を加えると8000万キロリットル相当であり、LNGも5000万キロリットル相当の容量があります。備蓄はこれらの設備を出来るだけ流用したいでしょう。そうすると液化した水素が最も有力です。特にMCHは石油備蓄設備を流用できるでしょう。

一方、LNGの備蓄設備はLH2かNH3が流用することになるでしょう。LH2を貯蔵するための改造が大規模になるならば、NH3に流れが傾くかもしれません。NH3については、現状はまだ、生産に多大なエネルギー投入が必要なため、革新的な省エネ技術の開発と普及が大前提です。

今日では、ほぼ毎日、何らかの形でマスコミが次世代のエネルギーについての報道をしています。しかし、必ずしも公平な比較にはなっていません。それは全体像を十分に把握していないためでしょう。

混迷した時代こそ、全体を俯瞰する力量が求められます。全体を俯瞰するのは、個々の専門性の高さとは別物であり、システム思考が必要です。専門性と専門性を繋ぎ合わせるスキルです。

変化の時代は、特定の専門性に強みを持つだけでは不十分です。全体を俯瞰した上で、その専門性の強みをどう活かすか、あるいは強みを活かすために何を補う必要があるかを考える力が必要です。

そのような考える力を養成する仕組み、仕掛けに興味はありませんか?