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製品進化とマネジメント風景 第39話 地熱・地中熱利用技術の進化とマネジメント

菅首相は、2050年にカーボンニュートラルを目指すビジョンを示しました。やっと日本も国家として化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトを明言したわけです。世界に目を向けると、CO2低減は銀行や保険会社から投資されるための必要条件となりつつあります。これは当然、産業界の進路に影響を及ぼします。今回は、まず、再生可能エネルギーへのシフト状況について、日本が世界の中でどのような位置にいるかを確認する所から始めましょう。

信頼できる資料として、国際ネットワーク組織REN21が発行している2020年版報告書を参照しました。再生可能エネルギーの分類は、電力、熱およびバイオ液体燃料の3つに分かれています。電力の比率が大きいですが、熱と液体燃料も無視できないからです。ここでは、まず電力を見ていきます。再生可能電力は、バイオマス、水力、風力、太陽光、地熱、太陽熱、海洋の7部門に分けて整理されています。2019年時点では水力がダントツの1位です。2位は風力、3位は太陽光ですがこの2つはほぼ同じです。太陽光の成長率が高いので来年には順位が入れ替わるでしょう。4位がバイオ、5位が本日の主役である地熱、6位が太陽熱、最後が海洋です。

まず、過去から積み上げた再生可能総発電力を比較します。世界のトップ5は、中国、米国、ブラジル、インド、ドイツです。日本はトップ5に入れていません。部門別にみていくと、中国はバイオマス、水力、太陽光、風力の4部門でトップです。地熱では米国が、太陽熱ではスペインがそれぞれトップです。中国が再生可能エネルギーへのシフトを本気で進めていることが良くわかります。日本は太陽光発電で第3位に入っているのみです。少し寂しいですね。

さて、今回の主題の1つである地熱発電ですが、ここでも日本はトップ5にさえ入れていません。日本はご存じのように火山国、地震国であり、有する地熱資源量は世界第3位と言われています。発電量に換算すると23GWもあり、トップ米国の30GW、2位インドネシアの28GWと大差はありません。原子力発電所数に換算すると20~30基くらいに相当します。地熱発電をしている国としては前述以外にも、フィリピン、メキシコ、アイスランド、ニュージーランド、イタリア、トルコがありますが、日本を除いて皆、潜在資源量の10~25%を開発して発電しています。

日本だけが潜在資源量の2%しか使っていないのです。蒸気貯留槽が小さいためと言われていますが、本当にそれが事実ならば、貯留槽の数が非常に多いことを意味します。規模が小さいことは、従来の経済観念からは不利となりますが、逆にブレークスルーの機会が残されていると解釈することも出来ます。今日は、単なる経済性の価値観から、環境への影響やエネルギー独立性を含めた再生可能や災害発生時の反脆弱性という視点が強まりつつあり、社会の価値観自体が変わりつつあります。

さて、地熱に加えて地中熱についても検討すべきことがあります。地球の構造は喩えると鶏の卵です。直径は約6000kmですが、地殻はたったの30kmであり、卵の殻同様に薄い皮一枚です。地中熱の特徴は地下10mになると季節に依らず温度が一定になることです。これは再生可能な熱の貯蓄層として使えます。

地中温度は100m深くなるごとに約3℃ずつ温度が上昇し、地殻の最深部では約1000℃にまで高温になります。いわゆる地熱です。地球の中心部温度は6000℃と言われており、仮に宇宙から地球を透視できたとしたら火の玉に見えるでしょう。我々が住んでいる地球内部の熱を発電に利用できたならばエネルギーの心配はなくなるでしょう。残念ながら今はまだ、地球内部のことは宇宙と同程度しか分かっていませんし、掘削コストも高いので使いこなせていない状況です。これは日本だけに限らないことですが、放っておくのはやはり勿体ない事だと思います。

地熱発電では、地中を天然のボイラーとして利用し、高温高圧の蒸気を抽出して蒸気タービンを駆動して発電します。そのために、まず、熱源である蒸気貯留槽を探索し、次に掘削して蒸気や熱水を取り出せるようにし、最後に発電が来ます。

蒸気貯留槽の探索は、複数の知見を組み合わせて行われています。地質学的方法、地球化学的方法および物理探索法の3つです。地質学的方法では、鉱物の種類、変質鉱物および熱水の分布情報などから地熱構造を把握します。地球化学的方法では、熱水の温度や主要溶存陰イオン分析などから地熱水の加熱機構を特定します。加熱機構は、火山ガス加熱型、蒸気加熱型、深部熱水型および熱伝導型の4つに分けられています。この中で、深部熱水型が質、量の両面で最も適していると言われています。物理探索法は、重力、磁気、地温、弾性波(地震波)、電気・電磁を用いて地層構造を可視化します。

物理探索法は、石油探索活動を通して進歩した技術でもあり、近年では2次元構造だけでなく3次元構造の可視化も出来るようになってきました。仮に時代が化石燃料中心から再生可能エネルギー中心に変わった場合でも、この物理探索法の技術は遺産として受け継ぐべきものです。特に電気・電磁探査は重要です。

重力探査では岩石の密度分布を調べます。盆地と山間部の境目などにおいて重力が急変する場合には断層が存在している場合が多く、断層に沿って高温地熱流体が上昇し、地熱貯留層を形成している場合が多いと言われています。磁気探査では地層の磁気異常を調べます。地球は北極がS極、南極がN極の磁石であり、地下の磁性鉱物は地磁気により南北方向に帯磁します。それに対する異常を検知します。地下の温度が500℃以上の高温に曝されるとキュリー点を超えるので岩石は磁性を失います。その領域には地熱源が存在している確率が高いことが推定できます。弾性波(地震波)検査は、石油探索では多用されますが、地熱源探査ではややマイナーです。

電気・電磁探査は、自然の電磁場信号や人工的な電流、磁場を通して地下の電気抵抗を調べて地層構造を可視化します。自然の電磁場信号としては、電離層や磁気圏で発生する電磁波や雷放電によって発生する電磁波があります。これらが地球の表面を伝わりながら地下に透過していく現象を利用して地下の比抵抗を求める方法です。地温が200℃を超えると比抵抗が下がるので、比抵抗の急変を調べることで地熱貯留層を見つけられる確率が上がります。電磁波の周波数によって地下の浅部から深部までの3次元地層構造を調べられるので、今日の高速計算能力を持つコンピュータを使うことでかなり容易に解析・可視化できるようになりました。この結果、地下構造に関するデータベースが整いつつあります。

地熱発電の方法に移ります。主たる発電法としてはフラッシュ発電、バイナリー発電および高温岩体発電があります。高温岩体発電はEGS (Enhanced Geothermal System)発電とも呼ばれます。

フラッシュ発電は、地中にある200℃レベルの高温高圧蒸気を用いた、蒸気タービンによる発電方法です。従来の火力発電技術を流用できる分野です。次のバイナリー発電は、70~150℃レベルの低温の地熱流体(熱水・蒸気)を用いて、水よりも沸点の低い媒体を用いて発電する方法です。地熱流体により、ポンプによって加圧された低沸点媒体を蒸発・気化させ、蒸気タービンを駆動して発電します。タービン流出後のガスは凝縮して液化し、ポンプにより再度加圧されます。これは、熱サイクルは異なるものの、技術的には後述する地中熱を利用するヒートポンプシステムと近い存在です。高温岩体発電は、高温岩盤に水を注入して水圧破砕し、熱をもらって発生した蒸気を地上に取り出して発電する方法です。シェールガスの抽出方法と技術的に近いものだと言えます。

さて、ここからは地中熱の利用です。地下10mになると地中温度は季節に依らず一定となります。四国九州南部では20℃、東京・大阪では17℃、北海道では10℃程度です。春と秋はエアコンを使いませんが、夏と冬は必要です。通常のエアコンは外気を吸入し、空気よりも沸点の低い別媒体との熱交換を通して冷暖房し、外気よりも熱い空気を室外に排出するヒートポンプシステムです。室外気を用いるということは、夏には35℃級の高温外気を吸い、別媒体を通して温度を27℃級まで下げて室内に吹き込みます。冬にはこの逆に、7℃級冷たい空気を吸って20℃級まで温度を上げて吹き込みます。もし、エアコンに取り入れる空気温度を下げることが出来れば、投入する電力を大きく減らすことが出来ます。

私が子供の頃、小学校は石炭ストーブでした。家は石油ストーブか電気ストーブでした。これらは燃料を燃やして暖を取るのですが、燃料の持っているエネルギー分しか暖めることができません。これに対してヒートポンプシステムでは、投入した電力エネルギーの6~7倍の冷暖房能力を発揮できます。ですから、エアコンの導入によってエネルギー効率は数倍上がりました。

エアコンは導入された当時は、オンオフ制御しか出来ませんでした。その後、インバータ制御が組み込まれるようになり、連続的な出力制御が出来るようになりました。また、交流発電機から永久磁石直流発電機に変わって要素効率も向上しました。それ以前より30%程度エネルギー効率が向上しました。細かい改良によって少しずつ効率向上してきましたが、そろそろ限界に達しつつあります。今日、大抵の日本の家庭、職場にはインバータ付きエアコンが導入され限界に達したので、省エネ手段としてクールビズやウォームビズに頼らざるを得なくなりました。

インバータ普及後の更なる効率向上、省エネ手段として残されているのが地中熱の利用です。夏は地中で室外気を冷やした後、冬は地中で室外気を暖めた後、室内機が吸入します。その結果、冷暖房する温度差が小さくなるので、消費電力を低減できます。夏冬平均すると約30%の電力削減効果があります。冷暖房を大量に使用する病院や工場では導入されていますが、まだ限定的です。

現在は、地熱発電よりも太陽光発電、風力発電に注目が集まっています。その方向性は妥当だと思いますが、日本の国全体を見渡すと、太陽光発電と風力発電に適した場所は、海岸と平野部に限定されます。これらの場所では太陽光と風力発電が主たる再生可能エネルギー源になるでしょう。一方、日本には山地が多く、太陽光、風力の発電には必ずしも適していません。平野部から長い送電線で電力を供給することは可能ですが、コスト高となって事業的に成立しない場合もでてくるでしょう。また、地震や台風で送電線が被害を受けると供給が止まるという脆弱性もあります。仮に蓄電池を装備したとしても、短期間の電力しか確保できません。

さらに、今日では米国一強の時代が終わり、国際的に不安定な時代に入る可能性があります。こういう国際環境ではエネルギー自給率を高めておくことが重要です。日本のエネルギー自給率は現在10%強です。異常と言えるくらい低い数字です。これに対して北欧のアイスランドは小国ではあるものの、地熱と水力でエネルギー自給率100%を達成しています。せめて50%くらいまでは自給率を上げたいものです。日本には火山性の山が多く、地熱源は豊富にあります。熱源である熱水、蒸気は、許容限を超えなければ、自然に回復する再生可能エネルギーです。少なくとも山間部や山麓における電力供給にこれを使わないのは勿体ないと思います。

地熱発電も地中熱利用も、課題は地下掘削と設備コストの低減です。発電分野は、これまで規模の経済で進んできました。しかし、新世代の原子力発電を見れば分かるように、小規模化してもコスト的に成立する解はあると思います。日本の地熱源は小規模なものが多数なのかもしれませんが、それは発電パッケージがたくさん必要になるわけで、数によるコストダウンができる可能性があります。地中熱の利用も同様です。世界市場を考えればさらに数は増えるでしょう。とはいえ、多いに知恵を絞る必要はあります。

かつて日本は、システムキッチンという、限られたスペースに多機能を詰め込んだ、世界に類を見ない低コストのパッケージ商品を開発しました。その時代は、皆が多分野の仕事を経験し、専門性は劣るものの統合することが得意でした。今は多数の専門分野に細分化された分業の時代です。専門性が高い要素を作るのは得意ですが、システムとして纏めるのが苦手になりつつあります。品質を維持して低コストの発電パッケージを創るには、多数の専門分野の知恵を有機的に統合するマネジメントの仕組みが必要です。貴社は、多分野の技術を迅速かつ適切に統合するためのマネジメントでご苦労されているということはございませんか? そのような場合はお役に立てると思います。