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製品進化とマネジメント風景 第69話 大型ドローン、空飛ぶクルマにおける技術と規制のマネジメント

小型のドローンを使ったビジネスは既にいくつか始められています。例えば、薬のような単位重量あたりの価格が高いモノの空輸ビジネス、テレビ番組用の空撮映像ビジネス、あるいは、土木工事や都市計画用の3次元地形計測などです。これらの共通点は人里離れた場所でドローンが運用されているということです。

大型ドローンや空飛ぶクルマを使ったビジネスについては、数年前に一度話題になりましたが、その後、しばらくは静かでした。しかし、2022年初頭から、あちこちで話題になりはじめ、一般の新聞や雑誌でも注目されるようになってきたようです。

ドローンに関しては、これまでも、橋、トンネルはもちろん、煙突、鉄塔あるいは老朽化が進む高層ビルなどの検査を出来ないかという需要は出ていました。

ただ、構造物の検査をするには、カメラによる目視だけでは不十分であり、壁を叩いてその反応を計測するなどの装備を持たせる必要があります。検査装備が重いので、小型ドローンでは対応できず、やはり大型ドローンが必要でした。

人口密度の高い場所での大型ドローン使用には規制があり、ベテラン作業者による検査は信頼性が高いので、これらの検査は人によって行われてきました。しかし、今後を考えると、危険な作業であることから後継者不足が懸念され、ドローンによる確度の高い検査技術の確立と規制緩和が望まれていました。

今回、その規制が緩和されたことから、人間による検査から大型ドローンによる検査への置換が急速に進み始めることが予想されます。一定のビジネスに成長するのではないでしょうか。

他方、年明けには、まず、米国の航空機メーカであるボーイングが、ウィスク・エアロと3-4人乗りの垂直離着陸電動航空機(以後eVTOL)によるエアタクシー事業に参入するというニュースが報道されました。

主たる飛行ルートは、ビルの屋上間を結ぶルートやビルの屋上と空港を繋ぐルートが提案されていました。飛行時間、距離はそれぞれ10-25分、40-100Kmであり、1km当りのコストは140円と予想されています。タクシーと比べても、速いだけでなく価格的にも安そうな感じです。

上記に続いて、ANAとトヨタがジョビーアビエーションと連携し、やはり空飛ぶタクシー事業に参入するというニュースが報道されました。一例として、大阪市内と関西国際空港を繋ぐルートが挙げられていました。

空飛ぶタクシーというコンセプトは確かにカッコイイですが、個人的には時期尚早だと思います。これは私だけの意見だけではなく、官民が協力して作成・発行した空飛ぶクルマのロードマップでも同様の見解が読み取れます。

地上を走る車と空飛ぶクルマの大きな違いは、後者は故障したら墜落し、乗客はもちろん、その落下地点にたまたま居た人達の命を危険に曝すことです。ですから、まず、無人地帯に近い地域間の物流事業で実績を積み、その後、人工密度の低い地方で人を乗せ、最後に都心部で人を乗せる事業に進むべきです。

「そんな悠長なことをしていたら、事業への参入が遅れる。市場を他社に取られる」という声も聞こえてきそうです。しかし、ここは「急がば回れ」だと思います。新コンセプトの製品は、完璧だと思っていても必ず何か抜け漏れがあり、問題が発生するものだからです。今回の問題は人命に直結するので、いい加減ではいけません。

それゆえ、故障や事故が起こったとしても、社会から許される範囲内で実際に事業を行いながら学び、信頼性の高い製品に仕上げていくのが、結局、最速の道だと考えられるのです。

「シミュレーションを使えば大丈夫だ」という人がいるかもしれません。確かにシミュレーション技術は向上しましたが、まだまだ実際の製品運用を完全には再現できません。安定に飛行している時の状況は高精度に予測できますが、突風などで機体が不安定な状況では予測精度は悪く、あまり役に立ちません。

最近、シミュレーション結果をAIに学習させて設計に適用するというコンセプトが時々提唱されています。役に立つこともありますが、予測精度の悪い領域でこれをすると、安全を目指して危険な状況に陥るという本末転倒パターンがあるので、機械的にやるのは止めた方が良いと考えます。

さて、空飛ぶクルマやeVTOLを扱う事業は、「本当に事業として成立するのか」という議論が時々、熱心に実施されています。私は個人的に、日本国という小さな領域だけでも、事業にはなりそうだなと感じています。大きく2つの理由があるからです。

第1は、日本の道路インフラ(路面だけでなく、橋、トンネルも含む)は老朽化がどんどん進んでいます。これまで造った全ての道路について、完全に整備するには莫大な費用がかかるでしょう。ならば、使用頻度の少ない一部の道路は廃止し、代わりに空のルートで人や物を輸送する方が経済的にもメリットがあると考えられるからです。

また、鉄道に関しても、JR総研には申し分けありませんが、地震国の日本において長距離トンネル内を高速移動するというコンセプトは無理があります。そこに大金をつぎ込むよりは、JR総研の優れた技術を空の活用に向けた方が、社会的メリットはずっと大きくなるだろうと考えます。

第2の理由は、高齢化と人口減により、いわゆる運転手が不足することです。物流で運転手が不足すると過重労働になり事故発生リスクが高まります。過重労働を抑制する方向に社会は進むでしょうから、放置すれば物流が滞り、経済を滞らせることになります。

これを回避するには、少なくとも部分的に無人化、自動運転を取り入れる必要があります。都市部など、道路インフラが整った所では無人運転車が輸送することになるでしょう。一方、人口密度の低い地域は、前述の話もあり、大型ドローンや空飛ぶクルマが有望だろうと考えるわけです。また、同じニーズは日本だけでなく、他の国にもあるだろうと思うのです。

政府も、空飛ぶクルマの発展性に着目し、法制面でサポートしています。まず、2015年には、無人航空機の扱いを追加した改正航空法が制定されました。この時、法律適用の細部基準を決める航空法施行規則も改正され、昨年6月にも新たな改正が行われました。

新たな改正の影響を理解しやすくするため、改正前の前提を記載します。

まず、無人航空機は、重量により適用される規則が変わります。最大離陸重量が25kgの所に一つの境目があります。想像してもらえば分かりますが、25kgのモノが空から落ちてきたら危険ですよね。

個人的には1kgでも危ないと少し思いますが、今の規則は25kgが境界線です。そして、25kg以上の空飛ぶモノは、簡単に墜落しないように信頼性を高めることが求められ、いわゆるフェールセーフ機能を付加することが求められます。

フェールセーフとは、故障は起こるものとして、何らかの故障が発生しても安全に保てるようにすることです。具体的には、通信系統、推進系統、電源系統および自動制御系統の4つがフェールセーフの対象とされています。

例えば、人が操縦するドローンは通信が途絶えると制御不能になる場合がありますし、推進系の故障や電源が消失すれば普通は墜落します。人の代りにマイコンが操縦する場合は、これが故障すると墜落します。

このような故障が起きても墜落しないようにするための、一番シンプルな対策は冗長化です。冗長化とは、システムを2重化(あるいは多重化)することであり、1つが壊れても残った方が対処することです。当然ですが製造コストは上がります。

さて、今度は25kg以下を見ていきます。25kg以下であれば全て無人機かと言うと、そうではない領域があります。そうです、ラジコンなどのホビー領域です。

以前の規則では、200g以下はホビー領域でした。しかし、無人機技術の高度が進んだため、200gという境界が100gに変更されました。これはラジコン業界・ファンにとっては大問題であり、波紋が起こりました。署名集めが行われ、与党国会議員へのロビー活動も実施され、最終的に規則の一部が緩和されました。ラジコン業界・ファンの政治力、恐るべしですね。

ここで、高度についての規制の話を挟みます。後で、関係する話が出てくるからです。高度の境目は150mにあります。ドローンは、水面あるいは地面から150m以上の飛行は禁止されていました。その空域は、有人航空機用であり、無人機と有人機の衝突を避けるためでした。しかし、これも後述するように見直されました。

さて、これまで、ドローンは、人口密集地域での飛行、夜間飛行、目視外の飛行、物件の投下など、全て禁止されていました。これだと、ビジネスに適用できる範囲が非常に限定され、企業も投資意欲が湧きません。そこで政府も動きました。

昨年の法改正では、ドローンを30m以内の紐で係留し、第3者の立ち入り管理措置をすることを条件としてですが、人口が密集する都市において、夜間の目視外飛行であっても、技能証明を受けた人が操縦する場合には、申請無しで建物に近づいたり、建物の脇に物を投下することが出来るようになりました。

さらに、煙突、鉄塔、高層ビルなど、高い構造物についても30m以内であれば、高度150mを越えた領域でのドローンの使用が認められるようになりました。よくよく考えてみると、従来の規制がやや過剰だったのです。

150m以上の領域は確かに有人航空機の空域ですが、有人航空機は原則として、高層の構造物を避けた飛行ルートを選択します。よって、そもそも衝突の可能性は極めて低かったのです。ですから現実を反映して法改正されました。ドローンによる高層構造物のメンテビジネスをする企業には朗報ですね。

空飛ぶクルマ等の大型ドローン事業については、今でも、人口密度が低い地域なら、無人での物品運搬は可能であり、今後、このビジネスにチャレンジする企業が増えていくでしょう。ただし、その場合、人が操縦するか、自律飛行させるのかの議論が次にホットな話題になるかもしれません。

ブロックチェーン技術を適用すれば、自律飛行は技術的に可能だと思いますが、目的を達成するまで動き続けるマシンに変身してしまうため、第58話で述べたように、ある種の規制をする必要があります。どういう事か説明します。

その前に、まず、パイロット不在の無人自律飛行を考えます。現時点ではまだ、私自身、パイロットが不在の航空機に乗る気は起こりません。

パイロットがいる飛行機を安全だと考えるのは、パイロット自身が死にたくないからベストを尽くし、だから乗客も安全なのだという考え方がベースにあると思います。これに対して、遠隔操縦のように墜落してもパイロットに危険が及ばない場合、モラルハザードが生じる可能性があるので、そういう航空機にはどうしても乗る気になりません。

技術が成熟すれば、ブロックチェーン技術を使った自律飛行の方が、人の遠隔操作よりもずっと安全だろうと推測します。乱気流等に入った際の飛行制御は、今でも自動制御系が担っており、それは、人が操縦しようがコンピュータが操縦しようが大差ないからです。これからの時代、一番危ないのは、システムの乗っ取りではないでしょうか。

もし、乗っ取りが無いならば、大抵の人は、無人の自律飛行をしていたとしても、いざという時には人が介入できるようにした方が安心に感じるのではないでしょうか。

しかし、人が介入できるということは乗っ取りも出来るということです。自律飛行時にコンピュータに全てを任せ、外からの介入を出来なくすれば、乗っ取りを防げます。この場合は、全てをコンピュータに任せることになるので、これはこれで不安ですね。どちらが良いのか、今はまだ答えが出ないのではないでしょうか。

空飛ぶクルマを使う事業に対して前向きに議論してきましたが、事業化を成功させるには条件があります。コストです。初期コストはもちろんですが、ライフサイクルコストがとても重要です。

これは、空飛ぶクルマと類似の存在であるヘリコプタ事業を考えれば、すぐに分かることです。ご存じのように、ヘリコプタ事業は、ある限定された領域だけで成立しており、広く普及しているようには見えません。

少し乱暴ですが、一言でいえばライフサイクルコストが高いためです。つまり、空飛ぶクルマを広く普及させようと思ったら、ヘリコプタを大きく下回るコスト構造を作り出す必要があるということです。

整備コストについては、eVTOL化により確実に低減できるでしょう。モータ、バッテリ、半導体等の初期コストについても、地上を走る自動運転車と部品を共通化すればコストダウンできるという考え方があります。

従来の考え方では、地上を走るものと空を飛ぶものでは安全基準が異なっていたので、「そんなの無理だ」という意見が出てきそうです。ただ、航空機屋の視点で見ても、知恵を絞れば実現できそうな感触があります。

皆さんはどうお考えですか?