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製品進化とマネジメント風景 第75話 半導体の技術と経営のマネジメント

半導体市場はアップダウンが激しいと言われますが、コロナ禍による巣ごもり需要もあったためでしょう、この2-3年は年率20%級の急成長中です。2023年には成長が鈍ると予想されていますが、果たしてどうなるでしょうか? 

AI利用のためのクラウド・データセンターの増加、工場IoTや車の自動化による需要などの明るい話題が多い業界でもありますが、歴史を振り返ると、このアップダウンを嫌う経営者も多いことに気付かされます。

その代表は欧州企業のフィリップスです。元々は半導体を手がける家電メーカでした。しかし、1991年には「メモリー事業は悪魔のビジネス」であるという名言(?)を残してメモリー事業を売却し、ロジックICに注力しました。

メモリーに関する前述の言葉が出てきたのは、「6年間大儲けできても7年目に儲けを全てつぎ込まないと事業を続けられない」ためであると、フィリップス幹部は発言しています。

フィリップスは、今回の主人公とも言うべきASML社に半分出資して設立するなど、半導体業界に及ぼした影響は大ですが、2006年には半導体部門を売却し、それは今のNXP社となっています。

フィリップス自体は、半導体を売却後、今度は祖業の家電事業も売却し、今日ではヘルスケア企業に完全に変身しました。急成長志向ではなく、確実に利益を上げる安定成長指向であり、学ぶ所が多そうですが、そろそろ本題に移りたいと思います。

半導体がここまで成長したのは、大雑把に表現すると、微細化技術の進歩とウエハーサイズアップの2つに依ると言ってよいでしょう。その結果、演算能力や記憶保持能力が急速に向上すると同時に、一連の製造プロセスで得られるICの数が増え、1個当りの価格が急減し、ありとあらゆる製品に使われるようになったのです。

上記の2つの内の1つである微細化技術は様々な技術の集積結果ですが、その中でもひときわ目立つのがリソグラフィー(露光)技術です。ムーアの法則が終わると言われて久しいですが、ロジックICだけは、この技術の進化もあって頑張っています。

今日の量産ロジックICの最先端は5nm級であり、そろそろ3nmの量産も始まるという話が出ています。人間の目の分解能は0.1mmなので、随分前から裸眼で見えない世界になっていましたが、今や光学顕微鏡でも見えない世界です。

さて、リソグラフィー技術の過去数十年に渡る経緯を知ることは、これからの技術と事業のマネジメントの在り方を考えていく上で、1つの良い題材になると考えられるため、ざっと振り返ってみたいと思います。

リソグラフィー技術を表すパラメータは3つあります。光の波長λ、プロセス係数K、開口数NAです。Kは縮小化できるレベルであり、NAは光の屈折率に比例します。波長を短くし、Kを小さくし、NAを大きくできると、より微細化ができることになります。

技術者が最初に注目したのは当然、光の波長λを短くすることであり、2000年代半ばくらいまではこれが微細化のドライバーとなりました。光の波長を短くするには光源の波長を短くする必要があります。

1980年から1990年代半ばまでは水銀ランプが使われるようになりました。光の波長としては436nmと365nmが使用され、600nmレベルの微細化を実現しました。ここまでは、まだ、半導体の微細化は波長よりも大きいサイズだったということです。

水銀ランプの後、エキシマレーザーを使用した光源が使われるようになりました。最初は、光の波長は248nmであり、この時に半導体微細化は180nmレベルに進みます。この辺から波長よりも細かいサイズを加工できるようになったということです。

光源の進化は続きます。エキシマレーザーの次の光源は193nmとなりました。半導体の微細化レベルは65nmに達し、光の波長の1/3程度の細かい加工が出来るようになりました。縮小化してKを下げる技術が寄与したと考えられます。

しかし、ここで、光源の進化が停滞しはじめます。おそらく一番の理由は、波長をさらに短くすると、どんなレンズも不透明になり、それまでの縮小化する光学系が使えなくなったためでしょう。

光源の進化が一旦止まったため、ムーアの法則もここで終わりかなと思いきや、技術者達は別のパラメータに視点を移して微細化を進めました。開口数NAの向上と、プロセス計数Kの更なる低下に焦点を移したのです。

NAは光の屈折率に比例するので、これを高めるには、屈折率の高い媒体を使うことを意味します。つまり、光学系を空気中から水や他の液体中に入れて使うようになりました。この結果、NAは大雑把にいって5割くらい高めることが可能となりました。

ですから、半導体微細は65nm から45nmまでは行けるレベルになりました。しかし、そこから先は別の方法が必要です。そこで新たに考案されたのが、多重パターニングです。2回、3回と分けて微細化加工を進める方法です。

多重パターニングはプロセス数が増えるので、面倒で製造コストは上がります。しかし、それでも顧客には微細化によるプラスの効果が大きかったということでしょう。上記で45nmまで微細化が進んでいるので、例えば3重パターニングにより理論上15nm級まで行けることになります。実現されたのは16nmでした。

4重パターニングに進めば、12nmまでは行けたのでしょうが、プロセス数が増えて製造コストが上がりすぎるためでしょう。その方法はポピュラーにならず、むしろ、再度、光源の波長を短くする方法が提案されました。

これがEUV(Extreme Ultra Violet)です。ただ、この技術はものすごく複雑であり、「よくこんなモノを考え出したものだ」と正直、感心します。発明はオランダのASML社です。

EUVが実現可能になったのは多くの技術の進化の賜物ですが、その中でも特にすごいと思う点が2つあります。それは光学系と光源の技術です。

EUVでは、光の波長として13.5nmを使用しますが、ここまで光の波長が短くなると、いかなるレンズも不透明となり、光が吸収され、加工に使えません。そこで、レンズから多数の鏡を用いる方法に、光学系を根本的に変えたのです。この特許はASMLが2000年に出願されており、1990年代にすでに研究に着手していたことが伺えます。

この光学系を用いてASMLは、2010年にEUVリソグラフィーの最初の製品であるNXE3100を発売しました。しかし、光源のパワーが弱く、シリコンウェハの処理枚数が少なく、量産には使われませんでした。

一方、米国西海岸にあるCymer社では、強力な光源を作り出す方法が研究されていました。2005年から2007年にかけてEUV光源に関する3つの重要特許を出願し、強力な光源を作れることを実証しました。

その方法は驚くべきものです。真空中のある場所で、錫(Sn)の液滴を垂らします。その垂れた液滴を標的として、そこに高出力のCO2レーザーを命中させ、プラズマを発生させます。このプラズマが強力なEUVの短波長光を作り出すという、なんとも複雑な仕組みだからです。そして、発生された光は、前述の多重鏡のシステムで縮小されて微細加工に使われます。

光源で行き詰まったASML社は、2013年にこのCymer社を買収し、2014年には光源の特許権を手中に収めます。その後に発売されたNXE3350以降はEUV量産化として使われるようになりました。最初は7nm、今は5nmであり、もうすぐ3nmの量産が始まると言われています。

面白いことに、ASML社は、Cymerの特許を2014年に取得した後、2016年には権利を放棄しました。その本当の事情は知りませんが、2つの解釈ができます。

1つは、EUV技術を広め、これを今後の半導体微細化の主流にしていくための戦略だという解釈です。もう1つは、仮に特許を開放したとしても、その裏にあるノウハウが重要であり、特許だけ見ても簡単には模倣できないという自信があった解釈です。個人的には、この両方の理由により開放したのかなと思っています。

ASMLの成功から言えることは、革新的な技術開発には時間がかかるということであり、長期間、研究投資できる体力が必要であるということが1つ。もう1つは、すべてを自前で実施すると時間が掛かりすぎるので、技術を持つ他社を巻き込む、あるいは買収することの重要性です。

興味深いのは、浮き沈みの激しい半導体業界を嫌ったフィリップス社が、このASML社の生みの親(正確には半分ですが)であることです。

ASML社の戦略は長い時間かけて差別化技術を生み出し、それで優位なビジネスをするというものですが、これはフィリップスの戦略とは異なります。だから、別会社化し、しかも、経営権も売却し、経営に口出ししませんでした。

ビジネス戦略の根本が異なる会社が経営に口出しすると、ろくな事にならないということを良く分かっていたのですね。この辺はさすがだなと感心します。日本の大手企業の中には、このフィリップスの戦略を真似る所が出てきました。

今後、日本でもASMLのような会社が出てきてほしいものですね。その条件を一言でいえば、まず粗利益を高めることです。そして、その利益の多くを研究開発投資に回すことです。ASML社の売上げはそれほど大きくありませんが、利益率の高さはすごいですからね。

そう考えると、これからの時代に技術系、製造系企業が生き残るためには、売上げではなく、利益率を高め、研究開発投資にフィードバックできる体力を持ち続けることが決定的に重要ではないかと、改めて認識した次第です。

あなたはどのようにお考えですか? 

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