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製品進化とマネジメント風景 第74話 太陽光発電のリサイクルマネジメント

もしかすると、2022年末は日本で電力が継続的に不足する最初の年として記憶されることになるかもしれません。

今年の夏は何とか乗り切ることができました。早い梅雨明けは、その後の好天と高温につながり、6月下旬から電力不足の警報を国が出すようになったので、どうなることかと心配しました。

幸いなことに、10年くらい前から太陽光発電が導入され始めて蓄積され、少なくとも昼間の発電量では一定の影響力を持つようになりました。そのため、冷房が必要な昼間の電力はあまり不足せず、むしろ、太陽が沈む夕方に不足気味となりました。

この状況は以前と異なります。かなり昔の話ですが、一度、真夏の昼間に電力供給制限がかかり、会社執務室の冷房をカットされたことがありました。記憶が正しければ室温は37℃に近く、とても仕事が出来るような状況ではありませんでした。

その時と比較すると、仮に夏場に電力制限が生じるとしても、一番暑い時間帯に冷房を切らなくても良い状況になったので、世の中が良い方向に進んでいる一つの根拠ではないかと思います。

問題は冬場です。基本的に、夏場よりも冬場の方が電力消費量は多いという統計結果が出ていますので、今年の冬は電力供給にとって正念場となるでしょう。夕方に電力消費のピークがくるので、時差通勤ならぬ時差帰宅、時差夕食が求められるかもしれません。

再生可能電力を増やすため、これからも太陽光発電(以後PV発電あるいはPV設備)は継続的に導入されていくでしょう。ただ、この先10年から20年で気になるのが、FIT制度により急激に導入されたPV設備が廃棄物になって大量で出てくることです。そこで、今回はリサイクルについて議論することにしました。

FITとはFeed-in Tariffの略ですが、政府が決めた固定価格で発電した電力を買い取る制度です。少なくとも2012年時点では買い取り価格が高く、ビジネスとしても成立しやすかったので、多くの個人、法人が参入しました。

PV設備の寿命については、20年とか30年といった数字が使われている場合が多いようです。FIT制度開始後の2013年から2015年の3年間は毎年8~9GW相当のPV設備が売れました。2022年現在でのPV導入は年4GW強ですから、当時、如何に沢山売れたかが分かります。

仮にPV設備の寿命が20年ならば、2035年頃には、当時導入された大量の設備が廃棄物となって出てくることになります。その物量は、アルミ枠を外した後でも50~80万トン/年と言われています。これは、今の日本が毎年出している最終産業廃棄物量の4~7%に相当します。結構な量ですね。

最初の疑問として、上記の数字は正しいのかという話があります。どうやら、危機感を煽るために多少誇張された見積もりだと指摘される場合があります。台風や水害や火災により一度に大量廃棄が生じる場合はありますが、通常のPV設備は20年以上使用できる場合が多く、上記の80万トンは多めの評価と考えてよさそうです。

しかし、いずれは年100万トンを越える廃棄物が出てくるでしょうから、その警報として意味はあると考えます。最終廃棄物量の10%を越え始めたら、やはり、それは相当に大変なことと考えるべきです。その意味で、今がPV設備のリサイクルを考え始める良い時期と考えられます。

さて、PV発電設備には、どんな材料がどの程度、使用されているのでしょうか? まず、これまでに市販されたPV設備の9割はシリコン系であり、1割がカドニウム系です。後者は有毒な重金属を含むため、産業用途しか使われず、それも専門業者がメンテや廃棄処分もしています。マイナーな存在と考え、ここでは大多数を占めるシリコン系PVに限定して考えていきます。

標準的なシリコン系PV設備では、使用材料はアルミが約15%、ガラスが約63%、プラスチックが約18%、シリコンが3%、非鉄金属が1%です。発電をする部分は僅か4%であり、ここを分別できれば、残りのアルミ、ガラス、プラスチックはリサイクル出来そうです。

リサイクルを考えた時、問題となるのは大きく2つです。1つはどう収集するかであり、もう1つは廃棄処理コストです。一般論として、住宅導入は小規模であり、事業をしている法人は中規模か大規模だろうと予想が付きます。

実際の数字を調べると、10KW以下が全体の8割を占め、残りの2割は中大規模となっています。法人から回収するのは比較的楽だと考えられますが、8割を占める個人所有のものを集めるのは大変です。ですから、ここに知恵を絞る必要があります。

もう一つの廃棄処理コストですが、FIT制度では、廃棄時を想定して費用を積み立てる努力をすることが決められていました。しかし、努力義務だけでは積み立てない人が必ず出てきます。

どれくらいかと言えば、小規模では75%、中大規模でも60%の人達が、廃棄処理費用の積み立てをしていませんでした。どうやら日本は、法制化されない事はしない傾向が強いようです。まあ、仕方ないですね。

さすがに国もこの実態を見て焦ったのでしょう。2020年に法制化され、今後は建設費用の5%を廃棄処理の費用として積み立てることを義務化しました。ただし、5%という数字の根拠は弱く、実際に廃棄しようとしたら、この数倍がかかる場合もあるようです。

そういう話を聞いてしまうと、個人として家庭用にPV設備を導入した人は心配になるでしょう。せっかくCO2削減と家計へのプラス効果を期待してPVを導入したのに、廃棄費用が高くなれば、当初の目論見からずれてくるからです。

こういう話が出てくるので、日本の制度設計は未成熟だなと感じます。では、持続可能性や環境面での先進地域である欧州はどうなのでしょうか。次は、欧州の状況を見ていきましょう。

一言でいうと、欧州は持続可能な制度を設計し、それが機能するように工夫を重ねてきました。計画の緻密さと実行面での忍耐力はさすがです。

欧州の環境指向については、ある種の経済戦略だと言う人がいます。確かにその一面はあるでしょう。しかし、全地球的な視野で課題を設定し、事業として何とか成立するように回す仕組みを必死に考える姿には頭が下がります。これを日本発で出来たのかと言えば、残念ながら出来なかったのではないでしょうか。

欧州では、まず、PVCYCLEというNPO法人が作られ、廃PVパネルの回収網を自主的に構築しました。2012年頃からはリサイクル制度が強化され、家庭からの廃PVが自治体によって収集されるようになりました。自治体という家庭に近い公的機関を使い、住宅用の廃PVの回収率を高めた所が欧州の仕組みの優れた点です。

なぜかと言うと、リサイクルは大量に集めて一度に処理すれば安く出来るからです。安いと言っても、産業廃棄物を処理するのと同程度のコストという意味です。

逆に言えば、もし、少量しか集められなければ、経済原理的に最も安い選択肢は産業廃棄物化となってしまいます。単に安いという理由で、多くの人が廃PVパネルを産廃化する選択を行い、大量のゴミが発生することになったでしょう。

これに対して、コストが同じならば、多くの人は環境に良い方を選びます。ですから、コストを産廃処理と同等にすることが最も重要であり、そのための鍵は、数の多い住宅用、家庭用のPVパネルを効率よく回収する仕組みであり、欧州は早い段階でこの点を見抜いていたということです。

廃PVパネルのリサイクル費用を誰がどう負担するかという問題ですが、これも理にかなっていて、受益者が広く薄く負担する形が徹底されています。無理がないことから、時間とともに自然に社会に浸透し、今や常識として根付いてしまったようです。

振り返って日本はどうでしょうか? 多くの人が、「家電リサイクルは、法律が定められて実施されている。家庭用PV設備はこれと同じに進めれば良いのではないか?」と思うのではないでしょうか。しかし、同様の法制化は難しいようです。

法律を作るということは罰則を作るということ意味します。家電リサイクル法を制定した時は、日本の家電メーカが多数いたので法制化できたのですが、PV設備については殆どが外国メーカ製であり、彼らを罰せないというのです。

それゆえ、ガイドラインだけあって、法律が無いのです。また、リサイクルを経た材料は完全なコモディティとして売れるものでなければなりません。つまり、リサイクル材とPV設備メーカが要求する材料のスペックと整合していなければなりません。材料スペックは外国が決めるのだから、決められないという話も出てきます。

日本のメーカならば法律で縛れるが、外国メーカは日本の法律で縛れないという話であり、そうなのかもしれませせんが、何か変に感じませんか? 

日本がPVリサイクル先進国で世界のトップを走っているならば、上記の話は分かります。しかし、日本は欧州の後追いをしている状況です。欧州は何でも国際標準化するのが好きですから、PVリサイクルもそうなるでしょう。

外国メーカも結局、欧州のルールに従うことになるはずです。であれば、国際標準の制定に積極的に関与し、それに合致するように国内法も作ってしまえば矛盾は起こりません。国際標準化は収益と利益率を高める手段にもなり、悪い話ではないように思ってしまいます。

「そんなに簡単ではないのだよ」という声が聞こえてきそうですが、過去の歴史を振り返ると、出来ない理由を並べた人ではなく、出来る方法を見つける努力をした人、見つけた人が社会を変えてきた事実があるので、前向きの考え方をした方が良いと思います。

法律が制定されない中、民間で頑張っている人達がいます。欧州のPVCYCLEから暖簾分けしてもらったPVCYCLEジャパンです。欧州と同様にNPO法人であり、現在、埼玉県と連携して様々な実証試験をしています。

PVCYCLEジャパンは、PV設備のリサイクルについて、欧州で出来ることは日本でも出来るようにするという目標を設定して活動しています。前述の話とも整合し、妥当な方向に進んでいるように見えます。

とは言え、欧州のように強制力のある法律がないため、どうやって日本全体に広めるかについて悩んでいます。法による強制がないと、殆どの人達は経済原理で動いてしまうので、どうしても多数のPVパネルが産業廃棄物になってしまうのです。

そこで彼らが考え出した対策は、急速にESG指向が強まっている金融機関を巻き込むことでした。

金融機関を巻き込むと聞いて思い出すことがあります。このコラムの中でも言及したことがありましたが、2017年に私は航空エンジンと産業用ガスタービンの国際会議に出席した時のことです。

その時、ESG指向のスイスの保険会社は、CO2排出削減の必要性を強調し、今後、CO2排出をする産業には投資しない、融資もしないと明言していたのです。これを聞いた当時は、「本当か?」と半信半疑でしたが、しばらくすると多くの金融機関が追随しはじめました。

エネルギー関連の投資は高額なので、金融機関の支援は必須です。金融機関の審査基準が、ESGに反する場合は短期的に儲かる話でも投資しないとなれば、その威力は大きいはずです。確かに国の法律の力に匹敵するかもしれません。

これからは、ただ儲かるだけでは駄目な時代になっていく、その兆候が見え始めました。企業が生き残るためには、製品のライフサイクルを持続可能な活動に変え、それでも適正な利益を上げられる構造にしなければならないということです。

PVリサイクルについては完全に欧州の手のひらで踊る構図であり、個人的には少し悔しく思っています。持続可能性を担保しつつ、日本の製造業が競争力を高めていけるような、日本発の戦略や世界標準の規格を生み出したいものです。当社も微力ながら貢献していきたいと考えています。