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製品進化とマネジメント風景 第11話 太陽電池の進化とマネジメント

かなり前のことになりましたが、台風15号により千葉県で大きな停電がありました。長い期間、停電が続いたので非常に印象に残っています。同じ事が我が家に起こった場合を考えると、相当大変な状況であることは容易に想像できるからです。台風19号が来る前には、東京でも停電が起こるかもしれないと、うちの奥さんから「コンビニで乾電池を買って来て」と頼まれました。コンビニに行くと、電池はありましたが、水のペットボトルが無くなっていました。物流サプライチェーンの滞りを強く感じた瞬間でした。

最近、デスクライトが壊れたので新しいのを買ったのですが、光源はLEDでリチウムイオン電池付のものでした。しかも消費電力は5Wと低いにも関わらず明るく、ベッドで横になりながら本を読むのに最適でした。台風が過ぎ去ってから気付いたのですが、これは軽くて持ち運びができるし、電池だけで4時間くらい持続するので、懐中電灯の代わりになります。わざわざ乾電池を買う必要は無かったと、少し後悔しました。

結局、私の住んでいる所は幸いにも停電はありませんでしたが、最近の台風は大型化しているので、来年も同じような事はきっと起こるでしょう。停電した時に、せめて照明だけでも困らないように、充電器を買おうと真面目に考え始めました。ただ、充電しても使ってしまったら終わりなので、停電が2、3日続いた場合も考慮して、充電できるものは無いかとネットを見ていると、今は何でもあるのですね。太陽電池パネルや、太陽電池パネルと二次電池のセットも売っていました。さらに、ペロブスカイト太陽電池については、大気中で塗付によって自前での作り方までネットに出ていました。ここまで情報が揃っているので、自前で、蓄電式の小型太陽光発電装置を作ってみようと思いました。そこで、その前に、太陽電池の技術や製造法について調べて整理することにしました。

太陽電池は、1839年に仏国ベクレルによって、電解質中での光起電力効果として発見されました。ボルタ電池の発明から40年後くらいのタイミングです。ただ、技術の世界ではよくあることですが、その後、1950年代になるまでは一部の研究者を除いて忘れられてしまいます。1950年代に再び注目を浴びたのは、半導体が発明され、半導体を使った太陽電池が、1954年に米国ピアソン、シャピン、フーラーによって発明されたためでした。誰でも一度は思うことですが、太陽光によって発電が出来るようになれば、人類はエネルギー問題から開放されます。

半導体ベースの太陽電池はコストが高かったので、それでも元が取れる適用先として、通信ケーブルのリモート電源や人工衛星用電源、さらには無人の灯台用電源などの産業用用途で商品化されました。

人類のエネルギー問題を解決するというテーマは壮大で魅力的ということもあるのでしょう。世界中の多くの研究者が研究を進め、様々な太陽電池が開発され、商用化されました。最初は、単結晶シリコン型が商用化されました。市販のものだと、変換効率は20%くらいです。その後、効率は15%くらいと少し低いですが、製造コストを抑えた多結晶型が出てきました。その後、シリコン非晶質系の薄膜系電池が実用化されました。大量生産に向いていますが、効率が9%程度と低く、あまりメジャーにはなっていません。

シリコンは酸化物の形で地球上にたくさんあるものの、還元するのに電力をたくさん消費するので、本来、製造コストは高くなりがちです。そこで、製造コストの安い化合物系太陽電池が現れました。

メジャーなものとしては、銅、インジウム、セレンおよびガリウムを原料とするCIS系あるいはCIGS系太陽電池と、カドミウム、テルル系の2つがあります。どちらも商用化されていて15%程度の効率を出していますが、研究レベルでは20%超まで到達しています。

CIS/CIGS系の欠点は、イリジウムとかゲルマニウムなどの希少金属を使用しているために、供給リスクを伴う点です。このため、希少金属を使用しないで同等の性能を出すための研究が盛んにおこなわれています。

一方のカドミウム、テルル系も薄膜で製造コストが安く、しかも一定の高効率を出せるので、太陽電池の中では最も投資効果の高いシステムとして認識されています。ただし、カドミウムという人間の健康に悪影響のある物質を使うので、日本では使われていません。米国First Solar社が中心的存在ですが、ユーザーに危険な作業をさせないように、太陽電池の設置、回収を含めて全て面倒を見る形で事業化を進めています。

最近では、色素増感の有機系や有機無機ハイブリッドのペロブスカイト系の研究が盛んです。後者のペロブスカイトというのは、自然の鉱物と類似の構造を持ち、元素置換が容易であり、その置換によって重要な物理的特性を制御しながら変えることが出来るので、様々な応用が可能であり世界的に注目されているのです。

そして、ペロブスカイト系太陽電池は、単独でも20%近い効率を出せる能力を持ち、しかも、シリコン系と組み合わせると、吸収する光のスペクトルが違うので、太陽光から無駄なく発電でき、効率も30%超の達成が確実視されています。また、常温・常圧環境で液を塗付することにより製造できるので、製造コストを大きく下げられる可能性もあります。マルチジャンクション型の太陽電池については研究レベルで40%超の効率を達成していますが、製造コストを考えるとこのシリコン/ペロブスカイト系のハイブリッド型が商品としてより注目されているというわけです。

当然、課題もあります。ペロブスカイト層は水蒸気に弱く、耐久性が課題になります。層を守るコーティング技術などが重要になってくるでしょう。

さて、色々な太陽電池が開発されてきているのですが、他の自然エネルギーと比べて本当に太陽電池が一番良いのかどうかは気になるところです。

比較評価する指標の1つに、EPT (Energy Payback Time) があります。これは、製造時とその後のメンテナンスを含めて生涯に投入されるエネルギーを、発電によって回収できる期間を表しています。この数値は短い方が良く、例えば、EPTが1年ということは、1年間発電するだけで、生涯に投入されるエネルギーを回収でき、その後の発電量はすべてクリーンな形で得られることを意味しています。

太陽電池では、EPT計算におけるライフサイクル投入エネルギーとして、太陽電池の原料の採掘、精製、運搬に加え、設備の製造、設置、保守にかかわるもの、退役後のリサイクル処理などが含まれています。

産業総合研究所のホームページを見ると、太陽電池の旧技術では1.4~2.6年、新技術だと0.96~1.9年です。他の自然エネルギーを見ると、バイオマス火力(森林)は1.9~5.3年、水力は0.6年、地熱は0.97年、風力は0.56~0.79年となっています。

この数値だけを見ると、水力発電が最もクリーンなエネルギーとなります。ただ、日本に関しては、ダムを追加する余地は殆ど無いでしょうから余り増やせません。次は風力発電であり、現在は太陽光発電よりも優れています。世界的に見ると、風力発電量は太陽光発電量よりも多くなっていますが、それは妥当な結果だということです。

ただ、風にしても太陽光によって発生しているので、結局は大元の太陽光を電力に変えるという発想の方がストレートで分かり易いので、太陽電池の技術開発は今後も進んで行くことは間違いないでしょう。

太陽電池生産に関しては、歴史的には日本は先進国であり、2005年には世界シェアが47%とトップだったのに、2007年には25%と半減し、2012年には僅か6%にまで減ってしまったという事実があります。これを以って、日本は太陽電池生産に負けたと言われています。しかし、太陽電池の発電量が全電力に占める割合は非常に小さく、増えていくのはこれからであり、これからが本番だと思います。七番勝負で例えると、初戦は勝って第二戦に負けたくらいではないかと思います。

太陽電池パネル単体の生産では負けたかもしれませんが、今後は、パネルと蓄電手段のセットの戦いになるでしょうし、長期間使用を前提としてライフサイクル価値が重要になってくるでしょう。更には系統電力網からの電力供給と、自家発電・蓄電分からの電力供給のベストミックスは、家庭、オフィスビル、工場によって、また、地域によって変わってくるでしょうし、ライフサイクル価値としては、運用コストを抑えて快適な環境を作るのは当然として、災害発生時でも一定の頑丈性(ロバスト性)を発揮するサービスが求められるようになるのではないでしょうか。

他方、道路やオフィスビルの窓にも太陽電池を埋め込もうという動きも出てきています。あえて極端なことを言うと、技術面と事業面の両方で成立するならば、社会インフラ、産業インフラを含めてあらゆるものに太陽電池が装備される可能性があります。この仮説が正しいならば、本当の勝負はやはりこれからということになります。

貴社は、太陽電池単体のモノ売りで勝負しますか、蓄電手段も含めたシステムで勝負しますか、それとも運用支援、メンテナンスを含めたサービス込みで勝負しますか? あるいは、太陽電池パネルという部材ではなく、社会インフラ、産業インフラで必要な部材に太陽電池の機能を組み込み、メンテナンスを含めたソリューションを作る道を進みますか? 

上記で挙げたソリューションを世に出すには、社内外を含めた多分野人材の知恵の統合が必要です。そのためには、統合を進めるための仕組み、仕掛けが出来ていることが前提条件です。ソリューション開発に向けた準備は出来ていますか?

参考文献

  1. 進化する燃料電池・二次電池 化学工業会 2019
  2. 平成25年度 家庭における電力消費量実測調査報告書 環境省
  3. 電気自動車用二次電池 西本裕 tokugikon 2014.9.5.no.274
  4. Future cost and performance of water electrolysis: An expert elicitation study,  O. Schmidt, A. Gambhir el.al., International Journal of Hydrogen Energy 42, 2017