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製品進化とマネジメント風景 第14話 水処理技術の進化とマネジメント

今後、都市化が進んで行くと言われています。過去の歴史を見ると、都市化が起こる時には3つの条件がそろっていました。第1は人口が増えること、第2は人口の増えた場所の既存産業だけでは人口を賄うだけの仕事を供給できなくなること、そして第3は新しい産業が興って働き手を求めていることです。よって、都市化が進む場所は、新しい産業が興って人を求めている場所ということになります。

世界の人口は現在77憶人であり、2020年には80億人に達すると予想されています。過去を振り返ると、1960年は約30億人であり、1980年は約55億人でした。1960年頃はまだ都市に住む人は3分の1程度でしたが、2010年には約半分となり、20年後には70~80%の人が都市に住むようになると言われています。

都市化が進めば人口密度が高くなり、土地を有効活用するために住居やビルの高層化が進んでいきます。都市が機能する条件を考えると、色々あるのでしょうが、最初に必要となるのは、水の供給、トイレ・下水の整備です。当然、食料供給も必要ですし、エネルギー供給や交通インフラも必要でしょう。しかし、水とトイレがないと機能しません。大きな災害が発生した時に、ビルが機能する最低条件はトイレ・下水が機能することと聞いていましたが、私自身もそれを経験しました。

20世紀は「石油の世紀」と言われてきました。ダニエル・ヤーギン氏の同名の著書を読むと、全くその通りと思いましたが、21世紀は「水の世紀」になると言う人達がいます。これについては、1995年に当時の世界銀行の副総裁だったイスマイル・セラゲルディン氏の発言が起源とされています。

地球上の水の量(体積)は約14億立方キロメートルですが、その97.5%が海水であり、我々の生活に必要な淡水は残りの2.5%しかありません。その3分の2は氷河などであり、残りの3分の1のうちの約1.3%だけが人間が利用できる淡水です。地球上の水の約0.01%という勘定です。この限られた淡水を約80億人でシェアして行く必要があるわけです。

人間が海水で生きていければ問題ないのですが、進化の過程で陸に上がり、その時に淡水を好むようになりました。その後の展開により、キレイな淡水が無いと生存できなくなってしまいました。水資源の品質に敏感になり、そこが弱点になってしまったわけで、進化なのか退化なのかよくわかりません。

日本はキレイな水が豊富な国です。キレイな水があることが当たり前になっているので、外国に行かないとその有難みをなかなか実感できません。一方、食料自給率は約40%とかなり低い状況にあります。食料を輸入しているということは、他国において、他国の水を使って食料を育ててもらっていることを意味します。この考え方を提唱したのは東京大学の沖大幹教授ですが、この考え方で日本の水の自給率を計算すると約60%となってしまいます。つまり、水が豊富な国と思っていたのは幻想であり、日本は食料だけでなく、水も輸入に頼っていると言って過言ではないのです。後述するシンガポールと同様、厳しい環境に置かれていると思います。

ここで、世界におけるトイレ(以後、衛生設備)と下水の状況を見てみると、情報が10年前で古いですが、人口約65億人のうち、満足な衛生設備を持たない人はなんと26億人と40%にも達します。

下水を放置すると起こる問題は、まず、臭い。次に感染症の発生源になる。さらに、人間の排出物には窒素やリンという生物にとって不可欠の栄養が含まれているため、水の富養化を起こし、環境汚染が起こります。

世界の下水整備の歴史を概観すると、人口が増えて排出物が垂れ流しとなり、その結果、ペストやコレラなどの感染症が発生・蔓延して非常に痛い目にあう。そこで解決策のために下水を整備するというパターンが繰り返されてきました。

人間自身の排出物を処理する技術開発については、産業革命により急激な都市化を経験した英国が先行しました。1893年に散水ろ床法が開発されました。この方法は、生物膜法の一つです。池に充填した石などのろ材の表面に下水を散布し、ろ材表面に付着した生物膜の力によって下水を処理する方法です。この方法は、運用コストが低いというメリットがありますが、広い場所が必要であり、しかもハエが大量発生したり、処理した水の透明度が今一つということもあって、その後に開発された活性汚泥法に置き換えられていきました。

活性汚泥法も英国において1914年に開発されました。下水に空気を積極的に供給することによって生成される沈殿物が、下水中の汚濁物を酸化して除去することが発見され、発見者はこれを活性汚泥と名付けました。活性汚泥は、好気性微生物である細菌と原生動物から構成され、溶存酸素を水中から取り込み、えさとしての有機物を酸化分解します。具体的には、有機物は、二酸化炭素、水、硝酸塩、硫酸塩などに分解されます。この方法は、省スペースで、しかも嫌気性生物処理との組み合わせにより、窒素やリンの処理もしやすく、その後、世界標準になりました。ただ、空気供給のための送風機電力が大きいため、その改善が進められています。

このように微生物を活用した生物処理技術によって非常に衛生的になりましたが、現在では、透析現象の発見を起源とした膜技術の進化が活性汚泥法と組み合わさり、膜分離活性汚泥法(以後、MBR)が開発されて広まりつつあります。この方法は、活性汚泥法で必要とされた最初沈殿池、最終沈殿池、消毒施設、汚泥濃縮施設が不要となり、工程がシンプルになるとともに必要敷地面積を小さく設計することが可能となりました。細菌やウイルスの除去もでき、水質がよりキレイになります。

このMBRは、1997年に英国において初めて実運用され、近年、世界中で広まってきました。日本では2005年に兵庫県で適用が開始されました。

膜の種類としては、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)および逆浸透膜(RO膜)に分類されます。膜素材としては、有機系高分子素材とアルミナなどの無機系セラミック素材に大別されます。膜形状については、平膜型、中空糸型、管状型およびモノリス型に分けられます。中空糸型と管状型と形は同様ですが、前者は直径が1-2mm程度の小さいものであり、後者は10mmオーダーのものです。

MF膜、UF膜によって大腸菌、クリプトスポリジウムなどの細菌類はもちろん、ウイルスなども除去可能です。NF膜、RO膜では溶け込んだ金属イオンなどの除去も可能です。RO膜については海水の淡水化に使用できます。

膜技術は、血液透析、細菌除去、レーヨン製造で発生する苛性ソーダ回収に使用される所から、米国を中心として産業化が進みました。米国は、第二次大戦中に細菌兵器から飲料水を守るために精密ろ過膜の研究を進めたとも言われています。その後、やはり米国において、海水から淡水を作る技術として逆浸透膜の技術が1953年に提案されました。

日本も1965年頃から研究を進め、1968年にはMFろ過膜による生ビール製造に成功し、その後、生酒の製造にも適用されるようになりました。医療用としては、透析用からスタートしましたが、人工腎臓、膜型人工肺なども実用化されました。逆浸透膜については、海水淡水化のほかに半導体製造用の超純水製造にも適用され、半導体産業の拡大に伴って普及していきました。そして、1980年以降になり、さらに水道用分野にも広がっていきました。このため、日本ではキレイな水を当たり前のものとして使えるようになりました。

今後の世界の方向性を見ていく時には、シンガポールがひとつのモデルになるだろうと思います。シンガポールは人口密度が高く、マカオ、モナコに次いで世界第3位です。

淡水の供給は、主にマレーシアからの輸入水に大きく依存していました。1927年に最初の契約がされましたが、2000年に新たな長期の水購入契約の更新の予備交渉に臨んだ際、それまでの約100倍もの金額を請求されるという事態が発生しました。その後の交渉で約20倍まで下がったようですが、シンガポール政府はこの事態を国家存亡の危機と認識し、水資源確保のための国家プロジェクトに乗り出しました。

早期に結果を出すために、世界中の水に関する研究者や専門家、会社を集め、ウォーター・ハブを設立し、海水淡水化に加え、下水リサイクルの技術開発と実用化に注力しました。

下水をリサイクルした水を飲み水にするという考えは抵抗があると思います。ただ、よくよく考えると、私自身も昔は縦走登山をしており、飲み水は山の水場から入手していました。山の水場の水には、人間の排出物が幾分か混ざっている可能性があると言われていました。ただ、見た目がキレイなので気にせずに飲んでいました。おそらく、膜処理によって得られた水はずっとキレイだろうと思います。抵抗はあっても、本当に水に困れば気にしなくなるように思います。ゆえに、今後、都市化が進むにつれて、質の良い淡水の入手性が悪くになるにつれて、下水のリサイクルはより大きなソリューションとして成長していくのではないでしょうか。

下水リサイクルの結果として出てくる排出物については、生物にとっての栄養分も含まれているので、再利用したいという意見もありますが、私の現在の見解は、燃料として燃やしてしまうのが一番安全と思っています。なぜなら、米国において、この排出物を使ってバイオソリッドを作り、それを肥料として使うことがされていました。しかし、その肥料を使った人達の間において被害がいくつか報告されているからです。科学的にまだ証明されていないようですので色々と言い分はあるでしょう。しかし、人命に影響する可能性が出てきた時点で、慎重に対処していくことが重要だと思います。

そういう意味で海水の淡水化にも懸念があります。中東などでは水不足のため、海水淡水化が一般化しています。海水を淡水化するということは、海水を淡水と高濃度の塩水に分離するということです。分離された高濃度塩水は、基本、海に戻されるので、部分的に塩分濃度が上がり生態系に影響を及ぼす可能性があります。どの程度までならば環境的に許容されるのか、いずれ基準の設定が必要になるでしょう。

水処理に関わっている貴社は、安全性、環境性と経済性の両立をどのように考えながら、今後の事業を進めていきますか?

参考文献

  1. 石油の世紀、ダニエル・ヤーギン、1991
  2. 水ビジネス、吉村和就、2009
  3. 浄水膜(第2版)、浄水膜(第2版)編集委員会、2008
  4. トイレの話をしよう、ローズ・ジョージ、2009