〒186-0002
東京都国立市東2-21-3

TEL : 042-843-0268

製品進化とマネジメント風景 第26話 通信部材の進化と原料マネジメント

人間がものづくりに使用している原料は通常4つに分類されます。セラミックス、木、金属およびポリマーです。年間消費の比率は約10年前のデータでは84 : 9 : 6: 1 でした。この比率は現在でもあまり変わっていないでしょう。4つの素材は形として残る材料ですが、これらを造り出すために消費されるエネルギー源である石油と石炭の生産量は、金属生産量よりも1オーダー大きく、セラミックス生産量と同規模です。物量的な意味においても、いかに大量のエネルギーを消費しているかを実感できます。

セラミックスの主成分はシリカであり、分解するとケイ素と酸素となります。地球上で最もありふれた存在である砂、砂利であり、石油が枯渇してもシリカが枯渇することは無いだろうと高をくくっていました。しかし、実はそうでもないようです。砂や砂利のうち、人間に役立つものは限られていて、大半は海底や川底に存在しています。毎年500億トンもの砂と砂利が消費され、その量は10年前と比べて倍増しているとのことです。主たる原因は都市化の進行です。コンクリートとガラスの塊ともいえる高層ビルの林立とその周辺に張り巡らされた道路網が大量の砂と砂利を消費するのです。

上記の話は、物量的に人間がシリカに大きく依存していることを示していますが、シリカは人間の生活の質的な面、特に心理的な面にも大きな影響を及ぼしています。それは通信によるコミュニケーションです。今日では、音声と文字だけでなく、様々な手段を通してコミュニケーションできるようになり、世界中の人々と容易に繋がることができるようになりました。今回は、通信を支える原料であるシリカとシリコンを主人公として、そのサプライチェーンを考えてみたいと思います。

2020年になって日本でも第5世代移動通信システム(5G)のサービスが本格的に始まりました。5Gの特徴は、教科書的には高速大容量、高信頼・低遅延、多数同時通信といわれます。しかし、そういわれてもピンときません。むしろ、通信によって人間がどのような情報を伝えていたかを各世代で俯瞰した方が分かりやすいと思います。

1Gは音声通信のみでした。2Gになって文字による電子メールが可能となりました。3Gになって画像を共有できるようになりました。4Gでは動画、アプリ、クラウドが使えるようになりました。4Gまでで、大抵の人が望む要求は満足できています。では5Gでどうなるかと言えば、1つは空間転送であり、もう1つは機械とのコミュニケーションだと思います。例えば、世界の裏側にいる人と面談しているように話ができる、外国にある工場ラインに、まるでその場に居るようにして稼働状況を観察できる、機械と人間が自然言語で話をできる、あるいは機械と機械が対話的なコミュニケーションを始めるといった感じです。ゆえに、遠隔医療、IoT、ドローン、無人運転などの活用が示唆されるわけです。

5Gが始まるタイミングで新型コロナウイルス問題が世界規模で発生しました。3つの密を避けるためにオンラインによるコミュニケーションが急増しましたが、何という偶然だろうと驚かざるを得ません。通信基盤がかなり整っていたこともあって、多数の人達が参加するオンライン会議もスムーズに実施できることが分かり、面談が必須と思われていたコミュニケーションの一部を代替できることが実証されました。

雑誌で読んだ話ですが、ある会社では、電子メールのやり取りが数回を超えたらオンライン会議を実施すべしというルールが作られたそうです。面談は依然として重要なコミュニケーション方法ですが、電子メールとリアルな面談の間に、オンライン面談という新たなコミュニケーション手段が認知されたということです。通信量は近年、年率30%で急増していましたが、今回の件によってさらに増えることになりました。

通信インフラを構成する要素は多々ありますが、ここではその中心的存在である半導体と光ファイバーに焦点を当てます。両者は原料サプライチェーンで深く繋がっています。ともに高純度のシリコンやシリカと必要とし、その製造には多大な電力を必要とします。いわばエネルギー多消費原料です。一方、これら2つの製造サプライチェーン全体像を俯瞰すると、途中に多結晶シリコンという中間材が出てきます。これはそのまま太陽電池の素材になります。エネルギーを大量に消費する原料が、一方でクリーンなエネルギーを大量に生み出す素材を生み出すという所に、なにやら不思議な偶然を感じてしまいます。

シリコンは高純度のシリカ砂あるいは石英を木炭などの高純度炭素で還元して造ります。純度は概ね98%です。米国内務省が公表した2017年の世界生産量統計では、シリコン生産量は240万トンであり、その75%を中国が生産し、残りをノルウェー、ブラジル、フランス、オーストラリア、米国などが生産していました。生産国の共通点は電力料金が安いことです。電力料金の高い日本は全て輸入に頼っていますので、供給に脆弱性があると言わざるを得ません。リスク低減のために外国に子会社を置いている会社がありますが妥当な策だと思います。価格は大体の目安ですが1トン当たり20万円くらいです。

シリコンの大半はアルミ合金やシリコーンなどの生産用に使われますが、一部はハイテク材料となります。高純度の水素、塩化水素を使うことにより、三塩化ケイ素(SiHCL3)や四塩化ケイ素(SiCl4)という高純度の中間体に形を変えます。高純度の四塩化ケイ素は合成石英の原料となります。合成法には直接法、プラズマ法、スート法などがあります。光ファイバーにはプラズマ法かスート法による合成材料が使われます。水酸基の不純物が少ないためです。水酸基は波長が1μm以上の赤外線の透過を妨げるため、赤外域波長を使う光ファイバーには適していません。直接法では水酸基が多量に含まれますが、その増加は紫外線を透過する方向に働き、結果として紫外線暴露に対する耐久性が増します。このため、紫外線域の光を多用する半導体製造装置のフォトマスク材やエキシマレーザーの光学部品に使用されます。三塩化ケイ素、四塩化ケイ素の価格は純度によって大きく変わりますが、高純度品は1トンあたりで前者は100万円、後者は200万円くらいとなり、シリコンの10倍以上の付加価値が付きます。

高純度の四塩化ケイ素は合成石英の原料となり、光ファイバーに使用されることを述べました。光ファイバーでは高純度の合成石英が必須なため、前述の高価な原料を用いざるを得ません。しかし、もう少し純度が落ちても良い部材では、安く入手できる天然の石英が使われます。例えば、半導体製造装置の炉心菅やシリコンウェーハを載せるボード、シリコンウェーハ製造用のルツボなどです。ここで、天然石英の価格をみてみましょう。

最近は天然の良質な砂や水晶が減りつつあって価格は上昇傾向にありますが、以下の数字は概ね妥当と認識しています。99.5%純度ならば1トン当たり約3千円ですが、99.8%純度になると1万5千円と5倍になります。さらに99.95%で3万円、99.99%では5万円となり、99.997%では50万円超となります。僅かな純度の違いで価格が100倍以上変わるというのは驚きですが、それほど半導体やその製造製品にとっては不純物が大敵だということです。合成石英の原料と比べるとこれでも安いことが分かります。

話を戻して三塩化ケイ素のその後ですが、これは多結晶シリコンの原料となります。多結晶シリコンは太陽電池素材であるとともに半導体用単結晶シリコンの原料となります。最近、太陽電池も単結晶シリコンを使う比率が増えつつあるので、単結晶シリコンを得るための中間体と言った方が適切かもしれません。多結晶シリコンの製造方法としては、以前はシーメンス法がメインでしたが、大量生産向けに様々な低コスト製造法が提案されています。多結晶シリコンから単結晶シリコンを作る代表的な製造方法はチョクラルスキー法ですが、そこで使用するルツボにも純度の高い天然か合成の石英が使われます。単結晶シリコンを薄くカットして表面を鏡面のように磨くと半導体用のシリコンウェーハとなります。

さて、シリカ、シリコンという砂を原料とする太陽電池は、製造時にエネルギーを大量消費しますが、製造後はエネルギーを長期間生み出す側になります。では、その収支はどうなっているでしょうか。エネルギー収支を表す指標としてはEPT (Energy Payback Time) があります。これは、製造時とその後のメンテナンスを含めて生涯に投入されるエネルギーを、発電によって回収できる期間を表しています。この数値は短い方が良く、例えばEPTが1年ということは、1年間発電するだけで、生涯に投入されるエネルギーを回収でき、その後の発電量はすべてクリーンな形で得られることを意味しています。

太陽電池では、EPT計算におけるライフサイクル投入エネルギーとして、太陽電池の原料の採掘、精製、運搬に加え、設備の製造、設置、保守にかかわるもの、退役後のリサイクル処理などが含まれています。産業総合研究所の検討結果を参照すると、太陽電池の旧技術では1.4~2.6年、新技術だと0.96~1.9年です。他の自然エネルギーを見ると、バイオマス火力(森林)は1.9~5.3年、水力は0.6年、地熱は0.97年、風力は0.56~0.79年となっています。

ですから約2年で太陽電池製造に要するエネルギーを取り返せるということであり、そこから先は、発電効率が維持されて長持ちすればするほど太陽という自然の恵みを人間のためのエネルギーに変換できるということです。これは良い話です。結果として、太陽電池で発電したエネルギーにより、半導体や光ファイバーの製造に必要なエネルギーはペイ出来ていると推測します。しかし、同じ砂を原料とするビルや道路を造るコンクリート、セメント、ガラスなどの建設資材の製造分まではまかなえていないでしょう。その結果、まだ、化石燃料によるエネルギーを大量に使わざるを得ません。

人類が今後も都市化を進めていくならば、エネルギー収支を改善するための活動を加速していく必要があります。まずは、建設資材の製造に必要なエネルギーを減らす技術が重要です。太陽光発電の効率向上と耐久性向上も効果があるでしょう。加えて製造サプライチェーンで消費するエネルギーを抑制することも意味があります。風力発電をもっと多用することもエネルギー収支改善に役にたつでしょう。

以上を纏めると、産業用製品についてはどの分野でも同じですが、製品運用時のエネルギー効率を高めるとともに、サプライチェーン全体でのエネルギー収支を改善していく必要があります。機関投資家としての金融機関の多くはESGの方向を向いており、事業のための資金調達のためには、製品とサプライチェーンのグリーン化が求められます。しかし、簡単ではありません。実現するためには、これまでには無かった新しいアイデアが必要です。

社内において、同じ人間といくら対話を深めたとしても新たなアイデアは出ないでしょう。日本の多くの会社では、長期間、同じ人達と過ごしています。一緒に居るうちに同じような考え方に染まり、社内での議論もしつくされ、アイデアは出尽くしていると考えるのが合理的です。

新たなアイデアを得るには、やはり社外との交流が必要不可欠です。しかし、社外との交流を深めるためには、異分野との人達とのコミュニケーションスキルが重要となります。一方で、異分野人材間の会話は噛み合わないまま進む場合も多く、これを改善するためには、異分野人材間のコミュニケーションを促進する仕組み、仕掛けが重要となります。この仕組みは中途採用人材の活用にも役立ちます。貴社は、異分野人材間の交流から事業化アイデアを生み出し育てるために、どのような仕掛けを用意していますか?

参考文献

  1. Materials and the environment, M. F. Ashby, 2009
  2. 砂と人類、ヴィンス・バイザー、2020
  3. 2017 Minerals Yearbook SILICON (Advance Release), US Geological Surveys, 2020
  4. https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/supplement/EPTdefinition.html 産業総合研究所ホームページ EPT定義